宇宙空間のデータセンターについては数多く耳にしてきた。だが、これは高コストで脆弱、しかも不要と思われる、極めて疑わしい構想だ。一方、「考える衛星」は、軌道上のデータセンターなど不要のまま、海洋インテリジェンスを桁違いに高速化できる可能性を秘めている。そして、NASA(米航空宇宙局)のジェット推進研究所(JPL)や欧州宇宙機関(ESA)と協業して30を超える地球観測モデルを展開し、軌道上で数十万件のAI推論を実行してきた企業が、さらなる規模拡大に向けて1100万ドル(約17億8000万円)を調達した。
その企業はUboticaである。最高経営責任者(CEO)のフィンタン・バックリー氏は、同社が「軌道上AI(Orbital AI)の先駆けとして何年も取り組んできた」と述べ、その「知見を地球上で最も難しい安全保障上の課題の1つ、すなわち広大な海域と重要な洋上インフラの保護に応用している」と語る。
ほとんどの地球観測衛星は、基本的には無線局を備えた非常に高価な軌道上カメラである。地球を撮影し、生のピクセルデータを地上に送信し、数時間後、あるいは数日後にアナリストがそれを解釈するのを待つ。
アイルランドの宇宙技術企業Uboticaは、このモデルは本末転倒だと主張する。
Act Venture CapitalとGreencode Venturesが主導した1100万ドル(約17億8000万円)の資金調達ラウンドは、Uboticaの「Live Maritime Intelligence(LMI)」プラットフォームの商用展開に充てられる。これは同社が「軌道上AI」と呼ぶ技術の初の大規模応用例だ。人工知能を衛星に直接搭載して稼働させ、軌道上で観測データを解析し、画像そのものではなく分析結果を地上に送信する。
タイミングはよい。海賊行為、国際通信回線の意図的な切断、その他の洋上破壊行為に関するニュースが増えている。海底通信ケーブル、エネルギー資産、パイプライン、戦略的な海上輸送路といった重要な海洋インフラを保護せよ、との圧力が各国に強まっている。
だが同時に、それらの追跡はますます困難になっている。シャドーフリート(影の船団)やダーク・ベッセル(追跡困難船)によって、海はどの国も単独では監視しきれない規模の安全保障問題となった。
Uboticaの提案は、スマート衛星がその助けになるべきだ、というものだ。
脅威を学習したAI基盤モデルを備えたスマート衛星は、海域内のどこでリスクが高まっているかを継続的に把握し、その後、自らや他のセンサーに動的に調査を指示できる。固定された収集スケジュールや地上での後処理を待つのとは対照的である。少なくとも1つの事例では、シンガポール周辺のインシデントを調査した際、同社は約20分でオペレーターに実用的な洞察を届けたという。その洞察の根拠となった画像そのものが届いたのは数日後だった。別の事例では、Uboticaの衛星コンステレーションが、宇宙機として初めて標的を自律的に識別し、それを撮影するために自ら姿勢を変えるなど、世界初の成果を挙げたとしている。
筆者はバックリー氏に詳しい話を聞いた。
ジョン・コッツィアー:LMIは従来の衛星ベースの海洋監視と比べて、どれほど速いのか。
バックリー:現在のモデルは、画像を取得し、生データをダウンリンクし、それをアナリストに渡すというものだ。これには数時間、しばしば数日かかる。われわれはそれを反転させた。軌道上のオンボードで処理し、画像ではなく洞察を送る。それは数分で届き、誰かが解釈するのを待つピクセルの山ではなく、すでに分析済みの形で届く。シンガポール上空では、約20分で地上に洞察を届けた。画像そのものが届いたのは数日後だった。
コッツィアー:現在、どのような脅威を検知しているのか。また精度はどの程度か。
バックリー:ダーク・ベッセル、船舶間の積み替え、なりすまし、そしてケーブル、パイプライン、洋上エネルギー施設の近くなど、本来いるべきではない場所で徘徊する注視対象船舶だ。われわれが送るすべての洞察には信頼度が付与されており、通常は90%台後半に十分達している。そして、それは積み上がっていく。時間の経過とともに、われわれが確認するすべての船舶のデジタルシグネチャーを構築しているため、監視を続けるほど全体像は豊かになる。
コッツィアー:インテリジェンスのうち、Uboticaの衛星から得られるものと第三者ネットワークから得られるものの割合はどの程度か。
バックリー:LMIは、1機の衛星や1種類のセンサーに依存していない。われわれは複数のコンステレーションおよびセンサーパートナーと提携関係を築いており、このプラットフォームは数百の異なるアセットに自動的にタスクを割り当て、そこから得たインテリジェンスを統合できる。
それが重要なのは、海洋安全保障がマルチモーダルな問題だからだ。光学衛星は日中で晴天であれば強力である。合成開口レーダー(SAR)は夜間、雲を通して、悪天候時に不可欠だ。RF(電波)衛星は船舶からの発信を検知する。AIS(船舶自動識別装置)、レーダー、ドローン、その他の情報源がさらなる文脈を加える。LMIの価値は、いずれか1つのセンサーにあるのではない。それらすべてを融合し、単一のリアルタイムなインテリジェンス像にすることにある。
コッツィアー:現在の展開規模はどの程度か。
バックリー:われわれは2カ国と実証に入るところで、さらに複数の案件が控えている。規模はEEZ全体、数十万平方キロメートルであり、多くの場合、その国の陸地面積よりも広い。
[EEZとは排他的経済水域のことで、国連海洋法条約に基づき設定される、国の海岸線から最大200海里(約370km)まで広がる海域である。]
まさにそこが、従来型の手法が苦戦する領域だ。海は広すぎ、脅威は動的すぎ、人間主導の監視は拡張できない。LMIはその問題のために構築されている。AIを使ってリスクが高まっている場所を優先順位付けし、適切なセンサーにタスクを割り当て、重要なインテリジェンスを浮かび上がらせる。各EEZ上で、われわれは生活パターンのモデル、つまり通常の状態を構築する。そうすることで異常が際立ち、脅威であれ無害なものであれ、われわれが取得するすべての観測がそのモデルをより精緻にする。
コッツィアー:リスクがどこで生じつつあるかを予測する高度なAIシステムは、御社のものなのか。
バックリー:そうだ。われわれのものだ。それらはある地域における通常の状態を学習し、リスクが高まっている場所を予測し、次に何を観測すべきかを判断する。人々が目にするリスクマップは、そのモデルの出力であって、モデルそのものではない。
コッツィアー:軌道上AIを大規模な商用コンステレーションへ拡張するうえで、最大の技術的課題は何か。
バックリー:まず物理的課題がある。過酷な環境下での運用だ。高放射線、激しく変動する温度、極めて限られた電力バジェットの中で、上空数百キロメートルを秒速約7.5kmで移動しながら、生データを数秒で洞察に変えなければならない。
しかし、同じくらい難しい課題が、搭載する知能の側にある。将来は、必ずしも「1つのタスクに1つのモデル」ではない。複雑な場面を理解し、複数の現象を同時に特定し、ミッションの進化に応じて適応できるAIエージェントとマルチモーダルモデルの時代だ。
1回の観測で、軌道上AIは船舶を検知し、船舶間の積み替えのような行動パターンを認識し、その他の事象を同時に分析する可能性がある。しかもそれを、軌道上で利用可能な限られた電力と計算資源の範囲内で行う。
コッツィアー:海洋分野の先に、軌道上AIの次の応用先は何か。
バックリー:海洋は最初の応用先であり、限界ではない。われわれが実際に構築したのは、地球観測を認知的でソフトウェアによりプログラム可能なものにする方法だ。したがって、モデルを差し替えるだけで、同じプラットフォームが新たな問題に対応できる。海洋モデルを山火事モデルに入れ替えれば、Live Maritime IntelligenceはLive Wildfire Intelligenceになる。同じループだ。リスクを予測し、異常を早期に捉え、センサーを融合してこれから起きることの像を描く。防衛、災害対応、国境警備、環境モニタリング、すべてが当てはまる。変化は単純だ。いまやわれわれには、軌道上で考え、行動できる衛星がある。それが、宇宙が何のためにあるかを変えるのだ。
コッツィアー:お時間をいただき、ありがとうございました。



