スペースXは、ロケット打ち上げ会社の枠を越えた複合企業である。衛星通信「スターリンク」が利益を生む一方、次世代宇宙船「スターシップ」とAI事業のスペースXAI(旧xAI)は巨額の資金を必要とする。さらにSNSのXも抱えており、収益力の異なる事業が1つの企業に組み込まれている。スターリンクの利益だけで、赤字事業をどこまで支えられるのかが核心となる。
この疑問を浮き彫りにしたのが、米国時間2026年6月22日に募集を開始し、翌23日に発行条件を決定した総額250億ドル(約4兆500億円)の社債発行である。株式投資家は将来の成長と株価上昇を期待する。これに対し、債券投資家が重視するのは、利息と元本が期限どおり返済されるかどうかだ。SpaceXの社債は発行後に値下がりし、投資適格級の格付けとは釣り合わない水準で取引された。これにより、同社の現金流出と返済能力に対する債券市場の警戒が表面化した。
株式市場が評価しているのは、イーロン・マスクが描く宇宙開発とAIの成長物語である。債券市場が見ているのは、損失、設備投資、現金収支、返済期限という数字だ。さらに、株式の希薄化と内部関係者による大量売却の可能性も株価を脅かす。スターリンクの利益だけで赤字事業を支え続けられるのか。壮大な将来構想と足元の財務状況との食い違いが、スペースXの企業価値をめぐる争点となっている。
株価は高値から25%下落し、評価額は291兆6000億円へ
スペースXの株価は、6月の新規株式公開(IPO)後に高値圏(190ドル台)に達して以降、25%下落した。この売りを引き起こしたのは、1兆ドル(約162兆円)台に乗る企業価値と、打ち上げ部門およびAI部門が内側に抱える深刻な損失との間で広がり続ける乖離である。債券市場が同社のリスクを織り込み直し、内部関係者は大規模なロックアップ解除に備えている。投資家は、スターリンクが生み出すキャッシュフローで残りの事業を支えられるのかを、改めて問い直している。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)の報道によると、株式投資家によるCEOのイーロン・マスクへの信頼から、同社の評価額は1兆8000億ドル(約291兆6000億円)に達した。その一方で、数十億ドル規模の現金を燃やし続ける実際の事業は、債権者の間に懸念を呼んでいる。
この株式価値は、関連性のない事業部門が組み合わさった複合体(コングロマリット)の上に成り立っている。5月に筆者が書いたように、スペースXは、衛星インターネットという「ドル箱」事業が、赤字を垂れ流す人工知能(AI)研究部門への補填を強いられている企業である。マスクは議決権の85%を握り、火星移住計画に紐づいた巨額のボーナスを狙っている。そして同社の社債は、投資適格級(Baa1/BBB+/BBB)でありながら、ジャンク債のように取引されている。
CFRAは23%下落のリスク、レイモンド・ジェームズは433%上昇を見込む
投資調査会社CFRAによる目標株価は、スペースXがスターシップの売上高、宇宙空間のAIデータセンター、スペースXAIとXの収益化という目標を達成できないリスクを挙げており、スペースX株がさらに23%下落することを示唆する水準だ。一方、投資銀行・金融サービス会社のレイモンド・ジェームズ・ファイナンシャルは、スペースXの獲得可能な最大市場規模(TAM)を30兆ドル(約4860兆円)と見積もる。これはマスク自身が想定する規模より1兆5000億ドル(約243兆円)大きく、同社はスペースX株が433%上昇する姿を思い描いている。



