IPOの割高な評価と上場後の財務的な動きが売りを招いた
スペースXの株価下落の根本的な原因は、IPO時における株式の高すぎる評価額と、同社の事業部門が持つ低い収益力とのギャップにある。それに加え、IPO後に行われたいくつかの財務的な動きが投資家をより不安にさせた。
売上高の94倍で上場、企業評価の専門家がIPO時の評価額は27%高すぎと断じた
IPOの仕組みも、上場初日の急騰に手を貸した。一般に売り出されたのはスペースX株式の約5%にすぎず、株価は売上高の94倍という法外な倍率で評価されていた。NYTによると、記録的な個人投資家需要は割当総数の30%を占め、通常の配分の3~6倍に達した。インデックスファンドによる買いも、株価を押し上げたという。
ある企業価値評価の専門家は、スペースXは恥ずかしいほど過大評価されていると断じた。ニューヨーク大学(NYU)スターン経営大学院で企業評価を専門とするアスワス・ダモダラン教授は、IPO目論見書に記載された28兆5000億ドル(約4610兆円)という獲得可能な最大市場規模(TAM)を引き合いに出し、「目論見書はGrokが書いたのではないか」という見解を示した。CNBCが報じた。
ダモダランのディスカウントキャッシュフロー(DCF)分析に基づくと、IPO時の評価額は27%高すぎた。TAMの予測は「公表するのも恥ずかしいほどの『幻覚』」であると付け加えた。
2029年までフリーキャッシュフローはマイナスとS&Pが予測
スペースXの資金を消費し続けるビジネスモデルを考えれば、2029年までフリーキャッシュフローがマイナスになるとS&Pが予測しても、驚くにはあたらない。スペースXは2025年に49億3700万ドル(約7990億円)の純損失を計上したからだ。
しかも、事態はさらに悪くなる。2026年第1四半期には42億7600万ドル(約6920億円)の純損失を計上し、AIの設備投資には77億ドル(約1兆2500億円)を費やした。
9月9日までに最大44%の株式が売却可能に
スペースXの株式配分は、個人投資家にとって重大なリスクである。イーロン・マスクは議決権株式の大部分を保有している。さらに重要なのは、第2四半期決算後に始まる段階的なロックアップ解除により、9月9日までに、対象となる保有株の累計最大44%が売却可能になることだ(ただし、このうち10%分の解除には株価条件が付く)。売却可能な株式の増加は、株価を圧迫しかねない。
Cursor買収と4兆500億円の社債発行に市場が反発
それだけではない。IPO後に2つの重大な出来事が発生した。それらは以下の通りである。
・6月16日に発表された、株式交換による600億ドル(約9兆7100億円)規模のCursorおよびAnysphereの買収。これにより株式価値は約4%希薄化した
・6月22日に募集を開始し、翌23日に発行条件を決定した総額250億ドル(約4兆500億円)の社債発行は、返済期限という現実を露呈させた
後者の社債発行は、トレーダーが社債をジャンク債並みの水準で値付けする事態を招き、市場にはまったく歓迎されなかった。ブルームバーグは「世界最大で最も洗練された投資家たちは、成功への道がマスクの吹聴するほど容易ではないとみており、その分に見合う見返りを要求している」と指摘した。NYTも「価格がこれほど急速に沈んだ案件は、ほかに思い出せないと複数のトレーダーはブルームバーグに語った」と付け加えている。


