SaaSの未来が問われている。2026年初め、大規模な市場売りにより、ソフトウェア株から1兆ドル(約162兆円)の時価総額が消失し、AIエージェントがソフトウェアのワークフローを置き換えるのではないかとの懸念が高まった。それからわずか数カ月後の現在、多くの人々がSaaSpocalypse(SaaS終末論)の最悪期は過ぎたと主張している。
6月、Business InsiderのエグゼクティブエディターであるJoe Ciolliは、iShares Expanded Tech-Software ETF全体でソフトウェア株が13%上昇したことを引用し、SaaSpocalypseは「終わった」と論じる記事を発表した。同様に、Thoma Bravoの創業者でマネージングパートナーのOrlando Bravoは、CNBCに対し、SaaSpocalypseは終わったと語り、「AIはソフトウェア企業にとって極めて大きな追い風だ」と主張したと報じられている。
SaaS市場は改善の兆しを見せているものの、Claude CodeやCodexのようなAIコーディングツールは、ソフトウェアベンダーに大きな課題を突きつけている。一方では、機能範囲が狭く、ユーザーインターフェースが薄いベンダーはコーディングツールに置き換えられるリスクがある。他方で、複雑なプラットフォームは、特にAIを活用してエージェント型の体験を構築できれば、生き残るうえで有利な位置にある。
明らかなのは、ソフトウェアの作られ方が変わりつつあるということだ。ソフトウェアベンダーはいま、誰もが数分でアプリを立ち上げられる現実の中で事業を営んでいる。そのソフトウェアが大規模展開に適しているかどうかは別問題だが、いずれにせよ、ソフトウェア制作への参入障壁はかつてないほど低くなっている。つまり、SaaSベンダーは価値を提供する新たな方法を模索する必要があるということだ。
SaaSpocalypseはどこまで現実なのか
年初には、急速な株式売りを受けてSaaSpocalypseが大きく報じられた。しかし混乱が落ち着くにつれ、業界の多くは、AIはSaaSを破壊するのと同じくらい押し上げるだろうと主張している。
4月、SalesforceのCEOであるMarc BenioffはAIツールのプラス面を強調し、Wall Street Journalに対して「人々は我々が追い詰められていると考えているが、実際には機会はかつてないほど大きい」と語った。
では、今日のSaaSpocalypseはどれほど実体のあるものなのか。「株式市場では、間違いなく現実のものだ。株価は下落している。しかし、それが実際に長期的に我々に影響を及ぼすという意味では、現実だとは思わない」と、Info-Tech Research Groupのプリンシパル・リサーチ・ディレクターであるTerra Higginsonは、6月にラスベガスで開催されたInfo-Tech LIVE 2026で筆者に語った。
Higginsonは、ツールが不要になり、企業があらゆるものを自社で構築できるようになるのではないかという恐れが強いと述べたうえで、「それは事実ではない」と語った。ただし、より薄いベンダー、特に単一機能だけを提供するSaaS製品については懸念があるとも指摘する。
「そうした企業はいま苦境にある」とHigginsonは述べた。「彼らはワークフローの多くを握っていない。トランザクションの多くも、データの多くも握っていない。そして、バイブコーディング(自然言語の指示でAIにコードを書かせる開発手法)で簡単に再現できてしまう」。こうしたベンダーはSaaSpocalypseに飲み込まれるリスクがある。
トップダウンの視点から見れば、Salesforce、Microsoft、SAPのような大規模プラットフォームは、広く導入されているだけでなく、基盤となる製品エコシステム、データソース、コンプライアンス、ガバナンス機能を備えているため、置き換えるのはより難しいとみられる。さらに、これらのベンダーはいずれもAIエージェントを活用し、社内の製品開発を加速できる。
「コードを迅速に生成できることは、大企業内でエンタープライズソフトウェアが果たす役割を代替するものではない。企業は単に機能を購入しているのではなく、ワークフローに組み込まれ、大規模運用のために設計された信頼性のあるシステムに投資している」と、Capital Oneのシニア・マネージング・ディレクターで、テクノロジー・メディア・通信バンキング部門のオリジネーション責任者であるRay Shuは、メールで筆者に語った。
SalesforceとSaaSの進化
SaaSpocalypseをめぐる懸念と並行して、エンタープライズソフトウェアの創出そのものも大きな転換期を迎えている。AIコーディングによる破壊だけでなく、自律型エージェントへのアクセスを提供する必要性によっても変化しているのだ。結局のところ、今日のアプリはコーディングエージェントの支援を受けて構築されているだけではない。エージェントのために設計されてもいる。
SalesforceのAgentforce担当エグゼクティブ・バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーであるMadhav Thattaiは、ビデオインタビューで筆者に対し、同社は過去3年間、生成AI機能をアプリケーションに取り込む方法だけでなく、顧客のためにエージェント型の体験をどう作るかについても考えてきたと語った。また、SaaSアプリは進化し、エージェントがそうした体験に「深く統合」されるようになるとも述べている。
「私たちは、人間とエージェントがオーケストレーションし、協働し、ともに素晴らしい体験を生み出す世界に生きることになると考えている。だからこそ、私たちは最初からその双方に最適化する形でソフトウェアを設計してきた」とThattaiは述べた。
同社は中核のCRMプラットフォームを、同社のウェブサイトが「エージェント型CRM」と説明するものへと近代化し、人、エージェント、アプリ、データを1つのプラットフォームに統合した。その狙いは、企業がエージェント型の体験を構築するために必要なツールを提供することにある。Agentforceはそのようなツールの1つであり、自律型エージェントを作成・カスタマイズするためのプラットフォームを提供する。
Thattaiはまた、アプリを構築することと価値を提供することは異なると強調する。「バイブコーディングなどについて多くの話を耳にする。人々は何でも素早く作って出荷できるし、優れたデモも作れる。しかし、成果が生まれる場所はそこではない」とThattaiは述べた。最も重要なのは、顧客の成果を推進し、その体験を最適化するためのツールと機能を提供することだと同氏は主張する。
この観点から見ると、Salesforceのような大手SaaSベンダーがバイブコーディングの時代にもなお重要であり続けるのは、企業顧客の間で広く導入されているからだけではない。バイブコーディングで作られたアプリでは再現が難しい、可観測性、分析、最適化、コンプライアンスの機能を備えているからでもある。
SaaSプラットフォームの統合
SaaS業界が直面するもう1つの課題は、スプロール、つまりツールの乱立だ。AI搭載のSaaS管理プロバイダーBetterCloudの調査によると、組織は平均で106種類のSaaSツールを利用している。この多数のアプリは管理が難しいだけでなく、業界に統合の必要性を生み出している。
「ソフトウェアの乱立は、偶然に起きることはめったにない。合理的な意思決定が1つずつ積み重なって起きる。あるチームが現実の問題を解決するために新しいツールを導入し、1年後には重複する問題を解くツールが10個存在し、全体像を誰も把握していないという状況になる」と、サイバーセキュリティベンダーSolarWindsの最高技術責任者(CTO)であるKrishna Saiは、メールで筆者に語った。
「SaaSの未来を決めるのは、ベンダーが生み出す誇大宣伝ではなく、提供する価値である。いま私たちが目にしているような市場統合の時期には、持続可能な製品を持つ組織と、主にマーケティングの勢いに支えられて作られた組織が選別される傾向がある」とSaiは述べた。
この統合期において、SaaSベンダーは価値提供への圧力を一段と強く受けることになる。「顧客はいま、すべての更新を精査しており、極めて単純な問いを投げかけている。これは実際に我々に何をもたらしたのか、という問いだ。誇大宣伝はその問いに耐えられない。価値は耐えられる」
Saiにとって、統合とは単にツールの数を減らすことではない。テクノロジースタックが、事業の変化の速さについていけるかを問うことだ。「私が毎回示す助言は、ツールが何をするかを問うのをやめ、それにどれほどの価値があるのかを問うべきだということだ」と同氏は述べた。
購入か構築か
AIコーディングによってソフトウェアの作成が容易になるにつれ、購入か構築かをめぐる議論の力学も変化している。AIはソフトウェア作成の参入障壁を下げ、企業が手作業のコーディングよりも速く実験し、動作するプロトタイプを構築する機会を与えている。
「AIはソフトウェア作成の経済性を変えた。かつて大規模なチームを必要とした作業を、いまでははるかに速くプロトタイプ化できるようになった。そのため、購入か構築かという議論が自然に再び開かれている」と、SonarのCTOであるAndrea Malagodiはメールで筆者に語った。
「SaaSベンダーは今や、インターフェースを超えた価値を証明しなければならない。自然言語がより多くのワークフローのフロントエンドになるなら、真の堀はもはや使いやすさだけではない。製品の深さ、成果の質、システムの信頼性、そしてエンタープライズ環境にどれだけ適合するかである」とMalagodiは述べた。
しかし、ソフトウェアの構築は容易になりつつある一方で、保守は依然として課題だ。「アプリケーションを作ることは、それを長期にわたって維持することに比べれば取るに足らない」と、SnapLogicのCTOであるJeremiah Stoneはメールで筆者に語った。「アプリの初版をバイブコーディングすることは、長期的なコミットメントへの頭金であり、この長期的なコミットメントこそが、ソフトウェアベンダーが存在する真の理由である」
Stoneはさらに、差別化につながらないアプリの構築に人員を割くことは、資本の有効な使い方ではないと付け加えた。同様にMalagodiも、問うべきは「これを作れるか」ではなく、「これを長期にわたって責任ある形で構築し、安全にし、維持し、進化させられるか」だと指摘する。
この意味で、企業はアプリをゼロから構築する際の初期の時間投資だけでなく、長期的な保守についても考慮する必要がある。バイブコーディングは、動作するアプリケーションを素早く作る方法を提供する。しかし、そうしたアプリが、定着したSaaSベンダーが提供する機能の規模やガバナンスに対抗できる可能性は低い。



