現在の世界情勢は複雑であり、組織に課題と機会の双方をもたらしている。
世界中のリーダーシップチームに求められているのは、目の前の混乱への対応と、成長を後押しする新たな機会の獲得との間で慎重にバランスを取ることだ。重要なのは、それが経営陣と取締役会の強い関与を生かし、長期的なレジリエンスを構築し、続く不確実性の中からより強い姿で抜け出すことも意味する点である。
取締役会の根本的な役割は、いかなる時代においても、組織の成功を可能にしながら、そのレジリエンスを守ることにある。現在の文脈でこの役割を果たすには、取締役会が従来型の監督を超え、「戦略的な問いかけ役」として行動し、経営陣に対する健全な問いかけと支援を通じて価値を付加することが求められる。
デロイト グローバルが2025年に実施した調査は、取締役会がガバナンスのあり方や経営陣との協働の仕方をどのように進化させているかを示している。調査対象となった750人の取締役および経営幹部のうち、86%は、自社の取締役会がリスク監視と並行して、成長戦略の監督と長期的なレジリエンスの強化により注力するようになったと回答した。73%は、特に戦略策定とシナリオプランニングをめぐる関与の度合いを高めたとしている。
実際、シナリオプランニングは、取締役会が積極的に関与すべき主要な手段として浮上している。回答者の71%は、取締役会の監督がレジリエンス強化に最も貢献できる領域としてシナリオプランニングを挙げた。シナリオプランニングは戦略的な取り組みとして1990年代後半から用いられてきたが、現在の取締役会と経営陣は、はるかに高度な経済モデリングツールを利用でき、AIを通じて早期警戒サインを継続的に探索・監視する能力も高まり、シナリオの枠組みを従来よりも動的に活用できるようになっている。
では、この新たなダイナミックな時代における効果的なシナリオプランニングとはどのようなものか。そして、取締役会はどのような役割を果たす必要があるのか。
協働的で構造化された取り組み
1つの変数の変化に対する反応に焦点を当てる感応度分析とは異なり、シナリオプランニングは、企業の将来に大きな影響を及ぼし得る、相異なるものの実現可能性のある複数のシナリオを検討する。
デロイトでは、世界最大級かつ最も複雑な組織の一部との取り組みを通じて、シナリオプランニングが極めて大きな効果を持つ手段になり得ることを把握している。存続に関わるリスクへの備えに使う場合であれ、特定の戦略レベルで意思決定に資するために使う場合であれ同様だ。後者は例えば、AI導入の判断材料とすることや、サプライチェーンに影響を及ぼす地政学的変化に対応することに焦点を当てる一方、他の戦略的優先事項との本来的な相互関連も考慮するものとなり得る。
あらゆるシナリオプランニングの目的は、複数のもっともらしい未来を思い描き、それらを用いて既存の規範や前提をストレステストすることにある。それにより、方向転換の可能性を示すトリガーを特定し、幅広い不確実性を考慮したプレーブックを作成し、新たに生じるリスクと機会に対する組織の「備える力」を効果的に鍛えるのである。
こうした目的を踏まえると、シナリオプランニングは、明確でありながら柔軟な構造を用い、経営陣が主導し、取締役会が支援する取り組みとして実施するのが最も望ましい。実施方法はいくつかあるが、適切なフレームワークを構築し、合意することが重要だ。図1は、経営陣と取締役会が計画、実行、フォローアップの3段階を通じて価値を高める取り組みを進めるための、こうしたフレームワークの一例を示している。
ガバナンスの越権を避けながら価値を加える
大胆で的確な問いを投げかけることこそ、取締役会の役割である。シナリオプランニングをめぐる経営陣との協働を強めることで、取締役会は優れたガバナンスと監督を支えるだけでなく、大きな価値を付加できる。ただし、それは取締役会と経営陣それぞれの明確に異なる役割の間で適切なバランスが保たれ、ガバナンス上の越権が回避される場合に限られる。
オープンで支援的な議論を通じて、取締役会は、計画対象とすべきリスク、機会、対応策の幅を広げる後押しができる。こうした建設的な問いかけは、戦略目標の実現可能性を明確にし、それを達成するために必要な行動を定めることにつながる。結果として、さまざまな「もしも」のシナリオに対する組織のレジリエンスを高めるのである。
取締役会の立場から見れば、議長は取締役会の認知的多様性を活用し、シナリオプランニング演習に付加される価値を最大化できる。CEOと直接連携し、対象範囲に最も合致する経験を持つ取締役会メンバーと経営幹部からなる小規模なワーキンググループを編成することで、議長は計画、実行、フォローアップの各段階における取締役会の関与を効果的にまとめ上げることができる。ここでも、AIツールは重要な支援役を果たし得る。
取締役会が経営陣と共にシナリオプランニングのプロセスを進める中で、掘り下げるべき重要な領域として図2に示すものが挙げられる。
レジリエンスと俊敏性を築く
取締役会は、その優先事項と関心をより長期的な戦略へと傾けている。シナリオプランニングは、この変化における主要な手段としてますます認識されるようになっている。取締役会の多様なスキルと建設的な問いかけを生かし、経営陣の長期的思考に大きな価値を付加するものだからだ。
実際、定期的な(理想的には年次の)構造化されたシナリオプランニング演習で協働することにより、経営陣と取締役会は新たに生じるリスクと機会により効果的に対応できる。そして最終的には、不確実性の中で組織が繁栄するために必要なレジリエンスと俊敏性を確保する助けとなる。



