2年前、私は娘の大学1年目の準備のために、ガイダンスカウンセラーのオフィスに座っていた。アドバイザーは、卒業後の就職を保証してくれる唯一の学位はコンピュータサイエンスだと強調した。しかし、娘の大学生活がようやく半分を過ぎた今、そのアドバイスは真実とは真逆のものになっている。
ルールはリアルタイムで変化している。保護者、大学、そして雇用主はみな、同じ問いに直面している。AI(人工知能)が普及した世界において、意義のある教育とは、一体どのようなものなのだろうか。
この不確実性は、大学進学を諦める理由ではなく、AI経済に参入する学生を送り出すために大学が果たすべき役割を再考する理由である。これを正しく理解している教育機関は、慌ててAI関連の学位プログラムを追加しているところではない。複雑性に対応できるよう、以前から備えていたところだ。
データが示す現実
エントリーレベルのソフトウェア開発や計算業務は、真っ先に消えつつある職種の一つだ。2026年4月だけでも、AIが理由として挙げられた米国の人員削減は2万1000件以上に達した。Anthropic(アンソロピック)のCEOであるダリオ・アモデイは、5年以内にエントリーレベルのホワイトカラー職の最大半分がAIによって淘汰される可能性があると警告している。
この予測の背景にある経済原理は極めてシンプルだ。ノーベル賞受賞者であり、AIの先駆者でもあるジェフリー・ヒントンが述べたように、「AIで利益を上げる最も確実な方法は、労働者をより安価なものに置き換えること」なのだ。世界経済フォーラムは、2030年までに中核的な職業スキルの39%が変化すると予測している。大学がこれに対応するまでに残された時間は少ない。
過去にも同様のことがあった
1950年代、NASAは、職種名が文字通り「コンピューター(計算手)」である数学者のチームを雇用していた。彼らの仕事そのものが「計算すること」だったからだ。映画『ドリーム(原題:Hidden Figures)』で描かれたキャサリン・ジョンソンは、1962年にジョン・グレンが地球周回軌道を飛行した際、その軌道を自力で計算した。しかし、1970年代までには、電子式のコンピューターがその役割を完全に消滅させた。
計算チームを監督していたドロシー・ヴォーンは、独学でプログラミングを学び、チーム全員を訓練した。現在、同様のストーリーが展開されようとしているが、その規模ははるかに多くの職種に及び、スピードも格段に速い。
生き残るスキル
AIは、若手社員の格好の訓練の場となるような、反復的なタスクを得意とする。こうしたタスクの多くでAIが人間を凌駕する世界において、雇用主がますます求めるのは、批判的思考力があり、優れたコミュニケーション能力を持ち、部署の垣根を越えて協働できる人材だ。かつて「ソフトスキル」と呼ばれたこれらの能力は、AIが模倣するのがはるかに困難である。AIを最大限に活用したい企業にはこうした人材が必要であり、さもなければ、現実は紆余曲折に満ちているにもかかわらず、AIが直線道路をただ突き進むだけというリスクに直面することになる。
JPモルガン・チェースのCEOであるジェイミー・ダイモンは率直にこう述べている。「私からのアドバイスは、批判的思考力を身につけ、会議での振る舞い方、コミュニケーションの方法、文章の書き方を学ぶことだ。そうすれば、仕事に困ることはない」。世界経済フォーラムのデータもこれを裏付けており、雇用主が重視する項目として、レジリエンス(適応力)、好奇心、創造的思考が、技術的な資格よりも急速に順位を上げている。
注目すべき3つの大学
2022年以降、AIの学位を提供する教育機関の数は倍近くに増えている。しかし、AI関連のプログラムを追い求めることは、過去の課題を解決しようとしているに過ぎないかもしれない。より深刻な問題は、多くの高等教育の特徴である「タテ割り」の構造だ。世界がその逆を求めている時に、単一分野の専門家を養成するような仕組みになっている。多くの教育機関が適応を模索するなか、優れた教育のあり方について指針を示す既存のモデルが存在する。
ひとつのアプローチは、職場をカリキュラムの一部に組み込むことだ。ノースイースタン大学の学部プログラムは「コープ(協働学習)」を軸としており、学生は大学での講義を受ける学期と、さまざまな企業や業界でフルタイムの有給就業を経験する学期を交互に繰り返す。学生は卒業証書を受け取る前に、複数の環境で実際の仕事を経験することになり、それは職場で進化するAIツールと協働しながら働くことを意味するケースが増えている。ジョセフ・アウン学長が「知識はコモディティ化しつつある。だが、経験はそうではない」と語る通りだ。
実践的で体験的な学びを、大学の構造そのものに直接組み込んでいる学校もある。メイン州バーハーバーにあるカレッジ・オブ・ジ・アトランティック(COA)が提供する専攻は、唯一「人間生態学(ヒューマン・エコロジー)」のみだ。学生は分野を横断し、自らの学習プロセスをゼロから設計する。COAのモデルには、学科ごとのタテ割り構造が最初から存在しない。学生は、生態系調査、地域政策、サステナブルデザインなど、現実社会に直結するプロジェクトに取り組む。その教育は、ただやり方を学ぶのではなく、実践することに重点が置かれている。リン・ボールジャー学長は次のように説明する。「当校のカリキュラムは、学生が複雑な状況を安易に単純化せず、抱え続けることを求めている。COAはそのために作られた」
そもそもタテ割りを生み出す構造自体を解体した大学もある。2002年、アリゾナ州立大学(ASU)のマイケル・クロウ学長は、既存の85の学部を廃止し、「複雑適応システムスクール」や「グローバル・フューチャーズ・カレッジ」など、35の分野横断的なユニットを中心に大学を再構築した。クロウはAIを「偉大なるイコライザー(平準化をもたらすもの)」と呼ぶ。2024年にOpenAI(オープンAI)と提携したASUは、分野横断的に500以上のプロジェクトを立ち上げた。ASUはAIが社会のプレッシャーとなるずっと前に方向転換を遂げており、その卒業生は今、非常に有利な立場に置かれている。
検討に値する道は大学だけではない。長らく過小評価されてきた熟練技能を要する職種は、AIによる破壊に対して最もレジリエンスが高い(耐性がある)分野のひとつだ。電気技師、配管工、大工などは、AIインフラのブームによって急務となった規模で、需要が高まっている。
しかし、大学進学を選択する人々にとって、問うべきなのは「AIの影響を受けない専攻はどれか」ではない。どのような人物を教育によって育てるべきか、ということだ。すなわち、領域を超えて思考し、複雑さに耐え、状況の変化に適応し、テクノロジーに追随するのではなく主体的にリードできる人間である。
著者はかつてカレッジ・オブ・ジ・アトランティックで教鞭を執っていたが、現在は同校との関係はない。



