260人超の医師が70万件超の回答を検証、精度の改善を進める
OpenAIはこうした問題を認識しており、ChatGPTの健康に関するアドバイスを改善するために260人以上の医師からなるグループを組織した。これら医師は、質問に対するChatGPTの回答を評価し、し個別の症例を検討している。十分な情報がないため助言できない場合に、そのことをモデルが適切に判断できるよう訓練するのも重要な役割だ。
スタンフォード大学で研修を受けた小児科医レベッカ・ソスキン・ヒックスは、約2年半前にOpenAIへ採用された。モデルの弱点を探る検証担当(レッドチーム)としての採用だった。現在はOpenAIの医師ネットワーク責任者を務めている。
ヒックスは「仕事を始めた頃、モデルの性能がそれほど良いとは思わなかった。率直に言えば、誤答を引き出すのはさほど難しくなかった」と明かした。
それ以来、チームは70万以上の回答例を検証し、消費者と臨床医の双方に対するモデルの精度を向上させてきた。OpenAIによると、現在では毎週数百万人の臨床医がChatGPTを使用しているという。
OpenAI独自の評価基準「HealthBench」は、医療分野でのモデル性能を4万8000の基準で評価する。緊急時に適切な受診を促せるか、必要な場面で不確実性を明示できるかといった項目が含まれる。新しいOpenAIモデルは以前のバージョンよりもヘルスケアタスクにおいて大幅に優れた性能を示したものの、不足している情報を自ら尋ねることには依然として苦労していることが示された。
事務作業の80%時間削減など、医療機関の業務運営で信頼性を示す
しかし、医療現場の業務運営(オペレーション)に関しては、同社のモデルはより信頼性が高い。50以上の病院を所有するフロリダ州の「アドベント・ヘルス(AdventHealth)」は、OpenAIのモデルを事務作業に導入することで、80%の時間を節約できたとしている。ニューヨークの「メモリアル・スローン・ケタリング(MSK)」がんセンターは、1000人を対象に試験的導入を開始したが、OpenAIのモデルがもたらした効果を集計できる段階には、まだ達していない。
「初期の兆候は素晴らしいものだ」とMSKの戦略的イノベーション担当バイスプレジデント、オフィーリア・チウは言う。「過去36カ月間のあらゆるマーケティングの熱狂にもかかわらず、医療機関のラーニングカーブはまだ始まったばかりだ」と彼女は語る。
数千の組織や新興企業がOpenAIのAIモデル上に製品を築く
グロスによると、医療分野でOpenAIが目指す成果の多くは、同社のモデルを使う企業や新興企業が新製品を開発することで生まれる。
時価総額230億ドル(約3.75兆円)の診断大手「ラボコープ(Labcorp)」を例に挙げてみよう。ラボコープの最近の調査によると、すでに41%の人々が検査結果の解釈についてAIを利用しているという。しかし、正確な情報を提供できるかどうかは、ツールによって異なる。そこでラボコープは5月にOpenAIと提携し、ユーザーが検査結果を理解し、数値の変化を継続的に確認できるよう支援するAI搭載のモバイルアプリを発表した。
ラボコープの最高情報技術責任者(CITO)のボラ・オイェグンワは、「医師に、意図的に誤答を引き出す厳しいテストをしてもらっている。それでも、精度は極めて高い」と語る。
AbridgeやAmbience、EliseAIといった新興企業を含む数千の組織も、OpenAIのモデルを使用している。
例の1つは「Abridge」だ。同社は、患者と医師の会話を聞き取って診療記録として文章化する技術で特に知られている。Abridgeの機械学習チームを率いるデイビス・リアンは、臨床医にとって最良の製品を構築するために、OpenAIやAnthropicの最先端モデルに依存しつつ、自社開発のモデルも使用していると語る。
OpenAIのモデルは、診療記録の作成や利用者から寄せられる一般的な依頼への対応では特に役立つ。患者の症状を評価したり、医療費請求にも使われる診断コードを作成したりする場面では、性能が落ちる。「高い専門性が求められるため、これは難しいタスクだ」とリアンは言う。「OpenAIは、この患者は糖尿病であると判断するかもしれない。しかし実際には、その患者は近視性の網膜症を伴う糖尿病ということまで特定する必要がある」。
それでも、AIの進化は非常に速い。5年後はいうまでもなく、6カ月後に医療AI分野がどうなっているかさえ分からない。
「GDPの2割(を占める市場)に対する特効薬など存在しない」とOpenAIのグロスは語る。「我々はただ、自社のモデルが人々の役に立つものになるよう、確実に取り組むしかない」。


