今後18カ月間、多くの経営幹部がこれまで経験したことのないような状況下での価格決定を迫られる可能性がある。顧客はすでに3年間にわたる値上げを吸収してきており、もはや余力がない。その一方で、コストはさらに上昇する構え(閲覧には会員登録が必要)を見せている。
筆者は、2022年のサイクルは、この世代で最も価格設定の容易な環境だったと考えている。まさにそれが例外的だったからだ。全面的で強気の値上げが定着したのは、消費者にパンデミック期の蓄えがあり、救済プログラムがそれを吸収してくれたからである。
今は、そのいずれも存在しない。現在では、所得上位10%の世帯(閲覧には会員登録が必要)が消費支出の不釣り合いなほど大きな割合を占めている。この一極集中した構図は、非常に脆弱なものだ。
だからこそ、これからの2年間、価格設定戦略は経営陣(C-suite)の最優先課題となる。マッキンゼーの有名な調査結果である、価格実現率の1%の改善が営業利益を約8%押し上げるという法則は、あくまで基本線である。直面する現実は、価格決定が「先読み(フォワード・ルッキング)」か「後追い(バックワード・ルッキング)」かによって左右される。価格設定の効果はプラスにもマイナスにも複利的に作用するが、下振れ(ダウンサイド)の際のダメージはより深刻であり、多くの企業は上振れ(アップサイド)の予測しか行っていない。
炭鉱のカナリアとしてのレストラン業界
レストラン業界は、このダイナミクスを観察するあらゆるビジネスにとって、有用な「炭鉱のカナリア」となる。レストランは裁量支出と必需支出の境界に位置し、薄い利益率で運営されているため、価格設定が及ぼす影響が明確に現れやすい。顧客の来店頻度の高さや頻繁な価格改定により、データさえ整備されていれば価格変更の影響を測定することが可能であり、手法の良し悪しによる差は、時間の経過とともに実質的な業績の差となって積み重なっていく。
筆者の経験上、メニュー値上げの約半分しか定着しない。この未達分は、消費者が注文内容を変更する(追加注文を減らす、サイズを小さくする、来店頻度を下げる、あるいは二度と来店しないなど)ことによって値上げを拒絶した結果である。
スマートな組織は、データサイエンスを用いてこれを管理している。緻密に測定された価格弾力性を活用することで、値上げの浸透率を大幅に向上させることができる。さらに、競合状況、顧客満足度の動向、人口統計、現地の生活費といった先読み要因を組み込んだ機械学習手法を用いれば、より優れた成果を上げることが可能だ。
テクノロジーはすでに存在している。問題は、自社がどのような手法を導入しているかを理解しているリーダーシップチームと、そうでないチームとの格差にある。次の2つのサイクルが、その試練の場となる。
客数の減少も、適切な価格設定がもたらすプラスの効果と同様に複利的に作用するが、その方向は正反対である。誤った市場で誤った品目の価格を高く設定しすぎると、客数が減少して利益が相殺され、何年にもわたってブランドが傷つくことになりかねない。
このパターンはレストラン業界に限ったことではない。代替可能な選択肢に対して頻繁に価格を設定するあらゆる企業が、同じダイナミクスに直面している。
価格設定によってどのような成果を目指すのか
AIや機械学習、ダイナミックプライシングなど、特定のどの手法を用いるかというテクノロジーに関する問いは、二の次の問題である。第一の問いは、企業が価格設定によってどのような戦略的成果を目指しているかであり、筆者の経験上、ほとんどの企業はこの問いに明確に答えることができない。
価格設定が戦略的成果として位置づけられることは滅多になく、その大半は「コスト回収」として捉えられている。コストが上がったから、それに合わせて価格を引き上げる。そうした枠組みは、前年の価格弾力性を基準にした戦術的な決定を生み出し、利益率の回復だけが唯一の成功指標となってしまう。それは価格を、単に設定すべき「数字」として扱っているだけであり、ブランドの健全性、顧客が感じる価値、そして競争上の地位を示す「永続的なシグナル」としては捉えていない。
その結果、企業は洗練されていない戦略を実行するために、洗練されたツールを採用することになる。
「ダイナミックプライシング」や「サージプライシング(変動料金制)」という言葉が、消費者向けのメディアで忌み嫌われる言葉となったのには、もっともな理由がある。これらを個々の取引からより多くの利益を搾り取るための一時的な手段として適用すると、利益が現れる前に消費者の反発や当局による監視を招き、ブランドを傷つけてしまうからだ。しかし、その根底にある手法そのものが本質的に搾取的なわけではない。セット販売やターゲットを絞った割引、あるいは精密な微調整として活用されれば、価値認識を向上させ、ブランド価値を守ることができる。技術が問題なのではない。その背景にある戦略が問題なのだ。
今後18カ月間をうまく乗り切る企業は、価格設定をコスト増加に対する単なる「条件反射」としてではなく、利益、ブランドの健全性、価値認識のバランスをとるための手段として扱う企業となるだろう。
そのためには、単に実行するだけのシステムではなく、「測定するシステム」が必要となる。AIを搭載した多くの価格設定ツールは、価値を「搾り取る(抽出する)」仕組みとして設計されている。永続的に学習を続ける、価値の「測定システム」として設計されているものはほとんどない。価値を搾り取るために設計されたシステムは、一定の犠牲を払って取引価値を最大化する。一方、顧客の反応を測定するために設計されたシステムは、サイクルを重ねるごとに精度が向上していく。
リソースに関する問い
今後の状況は、もう1つの問いを投げかける企業に味方するかもしれない。「これをうまく実行するために必要な支援は整っているか?」という問いだ。何年にもわたって複利的に膨らんでいく数百万ドルもの価格実現率のギャップを前にすれば、対応能力(ケパビリティ)への投資が制約要因になることは滅多にない。制約となるのは、その投資を行う「意思」があるかどうかだ。
ここでの支援とは、単なるソフトウェアを指すのではない。それは、商圏のシグナルを読み取り、それを意思決定に落とし込むことができるアナリスト、データサイエンティスト、価格戦略担当者といった「社内の専門知識」である。重要度に応じて外部の専門性を活用するための「外部パートナー」である。サイクルを重ねるごとに検証・監査し、改善できる「手法」である。そして、リーダーシップが価格設定を、自動操縦されるバックオフィス機能ではなく、「戦略的な能力」として扱うことである。
苦境に立たされる企業とは、リソースが不足している企業ではなく、「アクセスできること」を「能力があること」と勘違いしている企業だろう。一見自信に満ちた、素晴らしいアウトプットが、次の四半期になって欠陥品だったと判明したときには、経営陣に偽りの安心感を与えていただけで、その悪影響はすでに進行している。
マクロ環境の動きは、多くの価格設定機能が対応できるように構築されているスピードよりも速い。顧客、従業員、投資家、そして規制当局は、ツールではなく、その「結果」を評価する。
利益率とブランド力を維持したまま乗り切る企業とは、価格設定には戦略的な注目と適切な専門知識が必要であると早期に判断し、自社のツールが何を行っているか、また自社のチームに何ができるかを明確に精査してきた企業となるだろう。



