昨年末、中央銀行の準備資産に関して、この30年間起こらなかった異例の出来事が発生した。海外の中央銀行が保有する最大の準備資産として、ゴールドが米国債を上回ったのである。
この基準値の達成が大々的に報じられることはなかった。しかし、これが極めて重要なのは、地政学的緊張の高まり、ドル建ての制裁、資産凍結、そしてドルの価値に対する長期的な不確実性に対して、世界の中央銀行がどのように対応しているかという構造的変化を反映しているからだ。この通貨的な再編は、分断されつつある世界経済において、中立的で財務的な回復力(レジリエンス)を備えた準備資産としてのゴールドの役割を際立たせている。
安定性、安全性、そして制裁
米国債は、米国財務省が発行するドル建ての債務証券である。貯蓄債券やFDIC(連邦預金保険公社)の預金、さらには現金と同様に、これらは米国政府の「全幅の信頼と信用」によって裏付けられている。米国債は一般に、安全でリスクがなく、極めて流動性が高いと考えられている。
しかし、外交的対立、領土をめぐる戦争、貿易摩擦によってますます特徴づけられる世界において、米ドルは地政学的なツールとなった。ドル建ての準備資産が凍結され、米国の銀行システムへのアクセスが制限され、制裁や選別的な金融規制を通じて国際取引がブロックされている。
米国がウクライナ侵攻後に数十億ドル規模のロシアの資産を凍結し、現在も数十年前まで遡る数十億ドル規模のイランの資産を保持していることを忘れてはならない。また、米国政府は、ロシアやイラン、北朝鮮を含む多くの国々に対して、国際決済ネットワークのSWIFTへのアクセスも制限している。
世界への波及効果は非常に大きく、特に、数十億ドル規模の米国債を保有し、自国の経済的主権を守ることにますます注力している中国にとってはなおさらだ。
高まるドルの覇権への挑戦
中国は米国債を保有する最大の海外勢の一つであり、間違いなく、ドル依存脱却において最も積極的である。中国政府は米国債の保有残高を積極的に減らすだけでなく、国境を越えた貿易やグローバルな取引における人民元の利用を促進している。
中国はまた、デジタル決済システム、オフショア人民元取引拠点、そしてBRICS Payを通じて脱ドル化の動きを積極的に推進している。BRICS Payは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカなどの国々を結ぶ、SWIFTシステム外で運営される越境決済ネットワークである。
その目的は明確だ。武器化される傾向が強まっているだけでなく、財政的にも脆弱な米ドルから脱却することである。米国の国家債務は現在、米国および世界の歴史上最高となる39兆ドル(約6330兆円)を突破しており、多額のドル準備を保有する国々の間で、長期的なドルの安定性に対する懸念が高まっている。
新興国市場とゴールドへの殺到
脱ドル化の重大な結果として、中央銀行によるゴールドの累積保有が進んでおり、その動きはBRICS諸国をはるかに超えて広がっている。中央銀行は、現物のゴールドを安全な逃避先とみなしている。ゴールドには普遍的な価値があり、政治的に武器化されることがないからだ。
ここ数年のゴールドの最大級の買い手には中国、ポーランド、トルコが含まれるが、より小規模な国々や、カザフスタンやウズベキスタンのような新興国市場もまた、多額の金塊を購入している。
これらの国々にとってゴールドは、ドルからの分散のみならず、世界的なボラティリティへのエクスポージャーを抑えるための重要な手段である。より脆弱になりがちな経済において、ゴールドを保有することは、世界の舞台で財務的な信頼性を強化する手段となり得る。
中央銀行によるゴールドの購入額は現在、記録的な水準に達しており、2022年以降の購入量は過去10年間の平均と比べて2倍以上に跳ね上がっている。この急増は、主に発展途上国の中央銀行によって牽引されている。これらの国々がより強力な通貨防衛を模索しており、また歴史的にゴールドへの配分が過小であるため、この傾向は続くと予想される。つまり、追加的な保有拡大の余地は十分に存在する。
構造的なゴールド需要の新しい時代
この種のゴールド需要は、国家的かつ構造的、そして長期的なものであるため、一般投資家の需要とは根本的に異なる。結果として、中央銀行は世界のゴールド市場を再編しており、この貴金属を代替資産から戦略的な準備資産へと変貌させている。
このシフトはゴールド価格を長期的に下支えするはずだ。中央銀行による持続的な大量購入は、JPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーといった大手金融機関による、強気な予測が高まっている背景の一つである。ドイツの投資大手ドイツ銀行は、新興国市場の中央銀行による金塊への配分増加を、今後5年間でゴールド価格が1オンスあたり8000ドル(約130万円)に達するという予測の主な要因として明確に挙げている。
投資家にとっての重要な留意事項
中央銀行がゴールドに対する実質的な長期需要を創出している一方で、ゴールドをリスクフリーの資産とみなすべきではない。ゴールドは価格変動の影響を受ける可能性があり、多くの伝統的な投資手段のように配当や金利の形で収益を生み出すことはない。さらに、地政学的緊張が和らいだり、インフレが沈静化したり、あるいは米ドルへの信頼が向上したりすれば、投資家によるゴールドへの需要が和らぎ、それに伴う価格調整が起こる可能性がある。
利回りを生み出す資産から極端に離脱し、ゴールドのような安全資産へと過度に移ることは、機会費用を伴う可能性があることを認識するのも重要だ。株式やその他の収益を生み出す投資は、歴史的に長期的な資産形成において重要な役割を果たしてきた。したがって、ゴールドは効果的なポートフォリオの分散化手段、ボラティリティに対するヘッジ、そして価値の保存手段として機能するものの、一般的には、より広範でバランスの取れた投資戦略の一部として組み入れるのが最も効果的である。
最後に
ゴールドの価値が、単一の政府や金融政策、政治制度に依存していないことを覚えておくことが重要だ。ゴールドは官僚的・イデオロギー的な枠組みの外部に、印刷することも、操作することも、武器化することもできない中立的な準備資産として存在する。世界的に認められた価値の保存手段として、ゴールドは極めて流動性が高く、普遍的に受け入れられており、深刻な経済的不確実性の時期を通じても購買力を維持してきた。
そして、地政学的リスクを軽減し、準備資産を多角化し、財務基盤を強化するためにゴールドを活用する主権国家が増えている今、投資家もその動向に注目するのが賢明であろう。
※本記事で提供される情報は、投資、税務、または財務に関する助言ではない。個別の状況に関する助言については、資格を有する専門家に相談されたい。



