AI(人工知能)は、CX(顧客体験)の測定における課題を抱えている。成功を測定できないわけではない。多くの企業が誤ったものを測定しているのが問題なのだ。
コンタクトセンター向け応用AIのパイオニアであるLaivly(ライブリー)による新たな調査では、65%の組織が自社のAIの取り組みを成功していると考えていることが明らかになった。これは高い成功率を示す数字に見えるかもしれないが、データをより深く探ると、異なる実態が見えてくる。筆者はポッドキャスト番組『Amazing Business Radio』の収録で、Laivlyの創業者兼CEOであるジェフ・フェッツにインタビューする機会を得たが、彼は誤った指標を測定することの危険性について語ってくれた。彼のコメントに対する筆者の最初の受け止め方は、誤ったデータは誤った安心感を生む、ということだった。
実際、AIプロジェクトの43%が期限内に完了せず、半数以上が当初の予算を超過している。そして、次の調査結果がその状況を端的に示している。
「10人中3人近く(28%)のリーダーが、AIが複雑なカスタマーサポート業務を効果的に処理できず、その結果、顧客をいら立たせて解約を増加させたことで、直接的な減収につながったと回答している」
さらに、5人に1人(20%)のリーダーが、減収が発生していることは分かっているものの、その損害を数値化できないと述べている。
筆者の専門は通常、カスタマーサービスやCX(顧客体験)だが、これらの調査結果はコンタクトセンターの枠を超えるものだ。特に、AIプロジェクトを成功させるよう圧力をかけられている経営幹部の意思決定者にとって、深く響く内容だろう。実際、Laivlyの調査では、取締役会の43%がAIの進捗に不満を抱いており、経営陣に対して成功を証明するよう迫っていることが明らかになっている。
プロセスの効率化やコスト削減を目的としてAIソリューションを導入するあらゆる企業にとって、誤った成功基準を設定することは重大な問題である。
導入と成功を混同してはならない
フェッツは次のように指摘する。「組織は、導入日や人員削減、チャットボットの稼働開始、あるいは社内で展開されているツールの数など、目に見えやすいマイルストーンを祝いがちだ。これらの指標は進捗しているかのような外見を作り出すが、外見にだまされてはならない」
Laivlyの調査では、約半数の組織が、AIによる顧客サポートソリューションの問題に起因する、顧客の摩擦(ストレス)の増加を報告している。顧客サポートを容易にするどころか、顧客は、たらい回しにされる回数が増えたり、説明を最初からやり直さなければならなくなったりと、より多くの摩擦を経験しているのだ。その結果、いら立ちが募り、競合他社に顧客を奪われる原因を作ることになる。
テクノロジーは、導入されただけでは価値を生まない。成果を改善して初めて価値を生む
AIに限らず、あらゆるテクノロジーソリューションを導入する際の成功と失敗の分かれ道は、成果が改善されるかどうかにある。これは至極もっともなことだが、一部の企業はAIができることの約束に魅了され、顧客体験を「過剰にAI化」してしまう。
自動化によって処理されるコールの割合が高くなったからといって、顧客の満足度が上がっているとは限らない。顧客がストレスを感じ、人間のオペレーターと話す必要があると感じるなら、その自動化は機能していないのだ。目標は、チャットボットや自動化によってより多くのコールを処理することではなく、顧客体験を向上させることでなければならない。フェッツは、すべての意思決定において、常に顧客の感情やニーズを第一に考えるべきだと語る。
大きな過ちは、企業がAIに「全力投入」したものの、人間のオペレーターをテクノロジーに置き換えることが、書類上は良く見えても解約率の上昇を招くことに後から気づくパターンだ。最終的に、これらの企業の多くはAIの活用を縮小し、人間のサポートを復活させ、解約を減らして失った顧客を連れ戻そうと試みることになる。フェッツは、AIが人間のオペレーターを完全に置き換えるべきではないと明言している。
裸の王様
AI導入の失敗が最大の懸念事項であるかのように思えるかもしれないが、リーダーがそれ以上に警戒すべきなのは、自分たちがAIで成功を収めたと誤認することだ。これは、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの有名な童話『裸の王様』に例えることができる。この物語では、皇帝は自分が素晴らしい衣装を身にまとっていると信じ込み、周囲の全員がその「幻想」を補強した。実際には、服を何も着ていなかったにもかかわらず、誰も皇帝に異議を唱えようとはしなかった。
多くの組織が、AIに対して同様のアプローチをとっている。フェッツは「リーダーたちは、進捗や成功の具体的な証拠ではなく、導入に関連するマイルストーンばかりを祝っている」と語る。その結果、リーダーは自社のAIソリューションを過信し、いくつかの機能は過大広告となり、期待通りの成果を出せなくなる。社内の全員から拍手喝采を浴びながら、欠陥のあるシステムをリリースするとき、企業は危険地帯に足を踏み入れている。そして、彼らに唯一本物のフィードバックを提供しているのは顧客であり、その顧客は他社に乗り換えるという行動でそのフィードバックを示しているのだ。
最後に
危険なのは、AIが失敗することではない。危険なのは、企業が性急に「成功した」と思い込むことだ。裸の王様の目に見えない衣装のように、誰か(多くの場合、顧客)が当たり前の事実を指摘するまで、その幻想は存続し続ける可能性がある。
この内容は、AIを活用してより良い体験を創出する取り組みを止めるべきだと言っているのではない。何が機能し、何が機能しないかを正しく見極めるべきだという意味にすぎない。成功基準は、単にAIソリューションを導入したことであるべきではない。その成功は、それを利用する人々、すなわち顧客からのフィードバックに基づくべきである。AIにおける最大のリスクは失敗ではない。それは「成功している」という幻想なのだ。



