川邊:今後もこのモデルで伸ばしていくのですか。
関根:年間約14万人、2025年は1日平均で約450人のお客さまにお越しいただいています。年齢も属性も偏りがなく、あらゆる層の方がいらっしゃるので、どのブランドとも組める余地があります。ただ、私個人としてはプロモーションの比重を徐々に下げていきたいと考えています。
今はどうしてもタイアップの側面が注目されがちですが、10年かけて、あの場所に人が行き交い変わらない銭湯があるということ自体に価値を認めてもらえる状態をつくりたいんです。街の銭湯がそこにあること自体が評価される方向へ、社会の見方を少しずつ動かしていくのが目標です。
川邊:任天堂の花札とのコラボレーションもやっていましたね。
関根:はい。花王さんとの最初の取り組みが石鹸だったのも同じ考え方です。小杉湯原宿では、変わりゆくブランドのシーズンコピーやタレント起用といったものはあえて出さなくていいのではないかと、いつもパートナー企業とお話ししています。
変わらない石鹸がそこにあること自体が、花王が長年築いてきた公衆衛生の文化を最も素直に伝えられる。銭湯のように余計なものを脱ぎ捨てたところから一緒に始めましょう、という姿勢ですべてのプロモーションに取り組んでいます。
川邊:確固たるコンセプトと価値観を持ってやっているということですね。
銭湯はかつて最大のメディアだった
川邊:銭湯で目にするプロモーションということで気になっていたんですが、ケロリンの桶ってありますよね。あれはどういう仕組みで各地の銭湯に置かれているんですか。銭湯側がお金をもらっているのか、それとも桶を提供してもらっているのか。
関根:かつては、銭湯専門の広告代理店が存在していました。1960年代は、ちょうど桶が木桶からプラスチック桶に切り替わる時期で、企業ロゴを入れる代わりに桶の製造費の全額を広告主が負担するという仕組みが考案されたんです。
富山の内外薬品──ケロリンのメーカーがこのアイデアに乗り、ロゴ入りの桶が通常の半額で手に入るとなれば銭湯側も当然そちらを選ぶので、全国に一気に広まりました。
川邊:富士山の壁絵の下に広告が出ている銭湯もありますよね。あれも同じ流れですか。
関根:はい、専門の代理店が手がけていた名残です。当時の銭湯は街で最も人が集まる場所でしたから、暖簾も広告媒体でしたし、瓶牛乳の文化も、冷蔵庫がまだ高価だった時代に人が最も集まる銭湯へ牛乳メーカーが冷蔵庫ごと持ち込んだことから生まれています。
川邊:銭湯で企業が宣伝するというのは、昔からあったんですね。
関根:ピーク時には東京の銭湯の数がセブン-イレブンの店舗数より多かったと言われているほどです。それだけ人が集まっていたので、企業が広告に使うのはごく自然なことでした。今はそれが新しく見えているだけで、歴史的にはずっと行われてきたことなんです。
(後編に続く)


