川邊:風呂に入る文化が日本にはありますからね。だからこそいろんな人が自然と集まってくる。
関根:集客という観点でいうと、小杉湯原宿ではサウナをあえてつくりませんでした。原宿という土地柄、サウナを設ければ若い層を中心に集客しやすくなりますが、若い方ばかりの空間になると、人によっては自分の居場所ではないと感じてしまう。そうした施設はすでに十分にあるので、私たちがつくるべきものは別だと考えました。
デザインにおいても心がけているのは、「誰かに刺さるデザイン」ではなく「誰にとっても嫌ではないデザイン」です。案内表示は、小さなお子さまが漢字を読めなくてもイラストで意味が伝わるようにする。目の悪いお年寄りにもなんとなく内容がわかるようにする。
言葉遣いも、誰が目にしても強さや尖りを感じないものを選んでいます。そうした積み重ねの結果、赤ちゃんからお年寄りまで来てくださる場所になっているのだと思います。
無色な銭湯と、嫌われないポータルサイト
川邊:関根さんの理想の銭湯像とは、どういうものですか。
関根:“無色な銭湯”をつくりたい、というのがずっとあります。小杉湯原宿も高円寺の本店も、男湯と女湯をまったく同じ形にしています。公衆浴場としては珍しいことで、一般的には男性客のほうが多いので合理的に考えれば男湯のスペースを広く取るんです。しかし小杉湯では同じです。男湯にもメイク落としがあるし、おむつ台もあります。
ただ、この説明をもってジェンダー論を語りたいわけではありません。小杉湯原宿が新しい価値観の先駆者として社会に何かを訴えかけるつもりはなくて、誰が来ても嫌な気持ちにならない、偏った思想や強いコンセプトがない場所こそがいちばん多くの人を受け止められると考えています。「ただ気持ちのいい湯に入りにきた」と思える場所が最終的なゴールです。
川邊:さっきから出てくる話が、とてもヤフー的だなと思っていました。「『Yahoo! JAPAN』は、どうやってつくられてきたんですか」と聞かれると、ヤフージャパンを立ち上げた井上雅博元社長も古参の社員も、とにかくターゲティングしないと。“好かれるデザイン”ではなく、“嫌われないデザイン”にしようと。
つまり国民の大多数が使うポータルサイトだったから、誰向けということをしなかったわけです。関根さんの銭湯の考え方と、とても似ています。多くの人を受け入れようとすると、そういう形に行き着くんでしょうね。


