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サイエンス

2026.07.11 18:00

鼻の下にある溝「人中」に秘められた人体の神秘

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人中を形成せず、別の器官を生み出した動物種

顔を構成する諸要素のなかでも特に小さなこの部位に、どれだけ多くの進化上の可能性が秘められているかを知りたいのなら、ホシバナモグラ(学名:Condylura cristata)を見ればいい。北米に住むこの小さなモグラでは、鼻と上唇を取り囲む組織の果たす役割が大きく変わっており、私たちが顔として認識するものとはだいぶ異なる外見となっている。鼻腔の周りに、肉質のピンク色をした触手が22本(11対)、星型に配置されているのだ。名前の元となったこの器官は、哺乳類の中でも最も変わった感覚器官の一つだ。

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ホシバナモグラ(stock.adobe.com)
ホシバナモグラ(stock.adobe.com)

これらの触手には、アイマー器官と呼ばれる、微細な感覚受容器が無数に詰まっている。ホシバナモグラは、目と耳は退化しているが、その代わりその鼻先に、動物に関して知られているなかでも最高クラスに敏感な触覚を持っている。

2012年に『PNAS』に掲載された、米ヴァンダービルト大学所属のケネス・カターニアの論文によると、ホシバナモグラは、獲物の特定から捕食まで、最短でわずか120ミリ秒しか要しないという。これは、記録されている哺乳類のなかでは最速のスピードだ。実際、あまりに速いために、その一部始終は肉眼では認識できないほどだ。

ホシバナモグラが持つ「星」は、厳密に発達学的に言えば人中ではないが、前頭鼻隆起と上顎隆起という、顔面を形成するのに使われる、祖先から受け継いだ同じ組織から構成されている。ヒトの場合はそれが、いつの間にか小さく目立たない、唇の上の溝になっていた、ということだ。

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このモグラの「星」は、ある器官が「痕跡」と呼ばれるようになっても、進化的には袋小路を意味するわけではないという好例だ。これは、「今のところ、この系統では、この構造はもはや選択圧を受けていない」という意味でしかない。つまり、別の系統が、異なる選択圧を受けた場合には、原材料となるものは同じでも、並外れた機能が生じることもあるのだ。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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