選択圧という、もう一つの問題
十分な時間に加えて、進化にはもう一つの必須要素がある。それは、集団における「形質の平均値」を変動させる程度に強い選択圧だ。自然選択は、生存と繁殖に影響を及ぼす形質だけに作用する。安定した環境、すなわちほとんどの個体が同程度に生存し、同程度に子孫を残せるような環境において、選択圧は長期間にわたって不在であるか、あったとしても弱い。強い選択圧がないとき、遺伝子頻度はゆっくりと、おおむねランダムに変動する。このプロセスは、生物学用語で「遺伝的浮動(genetic drift)」と呼ばれる。遺伝的浮動も紛れもなく進化ではあるが、方向性をもたず、また、ほとんど認識できないくらい漸進的なプロセスだ。
進化を加速させ、目に見えるものにするのは、環境のかく乱だ。生息環境の変化、新たな捕食者の侵入、病気の流行が起こると、選択圧が跳ね上がり、集団は時に、驚くべき速さで変化する。
2010年に『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載された分析データは、ガラパゴス諸島のダーウィンフィンチ類を対象とした、40年にわたるフィールド研究で記録された変化を概観している。これによると、フィンチのくちばしのサイズは、干ばつに起因する食料供給の変化に応じて、わずか数世代で顕著に変動していた。
生物に内在する、進化を可能にする仕組みが加速したわけではない。外圧が高まったことで、進化がスピードアップしたのだ。
都市は進化の実験室
進化が静止していないことを裏づける、最もはっきりした証拠は、意外な場所から得られている──プエルトリコの都市郊外だ。プエルトリコの中心都市サン・フアンに生息するトカゲの一種クレステッドアノールを、過去数十年にわたって研究してきた生物学者たちは、驚くべき現象を目撃した。2023年に『PNAS』に掲載された論文によれば、都市に生息するアノールは、森林に生息する同種集団と比べ、四肢がより長くなっていたのだ。
この形質は、都市に多く見られる、樹木のない開けた空間を疾走する際に有利になるようだ。さらに、都市のアノールは、四肢の指にある接着パッド(指下板)がより大きく複雑な構造をしていて、滑らかな表面(コンクリート、ガラス、塗装した金属など)に貼りつくことに長けていた。
加えて、研究チームが都市と森林のアノールの耐暑性を調べたところ、前者は後者よりも摂氏約1.1度高い温度まで、活動量を維持した。進化的に見れば、都市の選択圧にほんの数十年さらされただけで、このように測定可能な生理的変化が生じたのだ。
アノールは例外ではない。アリゾナ州第二の都市ツーソンに生息するメキシコマシコという小鳥は、農村部の個体群と比べて、くちばしがより長く、幅広い。これは、民家の庭の餌台に置かれたヒマワリの種を割るのに適している。


