赤石:おっしゃるとおりです。自動運転のレベル4(運転手なしで自動走行する段階)になると、遠隔で車両を監視するシステムの設置が認可の条件になります。車のセンサーからの情報に加えて、路側に設置されたインフラから通信で受け取る「路車協調」の仕組みも検討する必要があるでしょう。自動車メーカー単独で対応できる範囲を超えた調整が増えています。
戸松:全固体電池やV2G(EVと電力網の間で双方向に電力をやりとりする技術)など、短期的には収益に直結しにくい技術にも投資を続けていらっしゃいます。そこにはどのような判断があるのでしょうか。
研究成果は将来引き出す前提で保持する
赤石:全固体電池は、現行のリチウムイオン電池の限界を超える可能性を持った技術です。エネルギー密度が高くなり、EVの航続距離を大幅に伸ばすことができるほか、充電時間の短縮も見込めます。我々は2028年度の実用化を目指して、横浜工場にパイロット生産ラインを設置しています。
材料の量産には大きな投資が必要ですが、優れた要素技術を持つ米国のスタートアップとも共同で開発を進めています。こうした企業は高い個別技術を持っていますが、それだけでは最終製品にはなりません。車に仕上げてお客さんに届けるのは我々の役割であり、そこでどのような組み合わせをつくれるかが問われます。
英国での社会実装に向け、V2Gの認証を取得しています。この技術によって、再生可能エネルギーの余剰電力をEVに蓄えておき、需要が高まった時間帯に電力網へ供給したり、災害時に地域の電源として活用したりすることが可能になります。
研究開発のなかにはこうした実用化が見えている技術だけでなく、まだ製品化の時期が読めないものも数多くあります。我々はそうした技術を社内で「棚に置く」と表現しています。すぐには製品になりませんが、途絶えたらもう取り戻すことができません。捨てるのではなく、将来引き出す前提で保持しておくという考え方です。
ただし、棚に置くものだけでは事業は成り立ちません。今すぐ収益を生む技術がなければ会社はまわりませんし、しかしそれだけだとチームは強くなりません。この配分の判断が、技術経営の中で最も難しいところだと感じています。
戸松:レガシーの扱い方の核心がここにあるのではないでしょうか。技術の蓄積を外から見えるかたちで発信すれば、それは「資産」になります。見えないまま埋もれていけば「負債」になる。どの技術を旗として立てるかの判断が、協業の相手との出会いにもつながっていくと思います。
赤石:開発体制そのものも、この判断を支える構造になっています。最も上流にあるのが追浜の総合研究所で、まだ答えの出ていないテーマも含めて幅広く可能性を探る場です。その次に先行開発を担う先進技術開発センターが厚木にあり、研究のシーズをある程度絞り込みながら量産に向けた準備を進めます。そして同じく厚木にあるテクニカルセンターを中心とする量産開発部門が、品質を徹底して高めて市場に出していく。研究と先行開発と量産開発では仕事の性質がまったく異なります。
研究所がつくったものを量産開発のメンバーが見て、「これはすぐに製品にできる」と判断すれば、先行開発を飛び越えて一気に進めることもあるでしょう。逆に、技術としては完成していても、市場環境が合わずに数年待つケースもあります。10の研究をやって10が製品になるとしたら、それは挑戦の幅が足りないということでもあるのではないでしょうか。
何を残し、何をいったん退くかの判断は絶えず求められます。すべてを維持することはできませんが、すべてを切ることもできません。重点的に投資するものと規模を絞るものを見極めながら、途絶えさせないようにしています。
経営再建の最中にあっても、自動運転や全固体電池にはきちんと予算をつけて進めています。そして、外のパートナーと組むことで、すべてを自社の予算だけで賄わなくても技術を継続できる道があります。協業は技術のポートフォリオを維持するための手段でもあるのです。


