戸松:EVの量産でも、他社がまだ慎重だった時期に「リーフ」を世に出していました。あの判断に「技術の日産」のイズムが凝縮されていると感じます。一方で、自社技術への強いこだわりと、外の力を取り込む柔軟さが同居しているところに、御社の本質があるのではないでしょうか。
赤石:自社の技術にこだわる面も当然あります。ただ、それだけではないというのが我々の歴史でもあります。ルノーと一緒にチームを組んで車を開発し、三菱自動車と共同で軽自動車をつくってきました。
自分たちのなかにある強みと、外にあるさまざまな知恵を掛け合わせて、より早く、より競争力のあるものを世のなかにお届けする。新しいことにチャレンジする姿勢と外部の企業と組むということは、我々にとって切り離せないものだと考えています。
戸松:共創が上手く動くかどうかには、二つの要素があると考えています。一つは「共通の未来」。こういう世界を一緒につくりたいと思えるか。もう一つは「共通の仮想敵」。つまり解くべき課題を共有できるかどうか。このままではまずいという切迫感を共有できるか。これらが言語化できたときに、人は自分の物語として動き出します。
赤石:おっしゃるとおりです。自治体と自動運転の実証を行うときも、地域の移動手段がなくなりつつあることや、タクシーの運転手が減っているといった共通の課題があって、初めて話が具体的に進んでいきます。
神戸市と連携し酒造エリア周遊の実証運転
戸松:1月に、神戸市灘五郷エリアで自動運転モビリティサービスの実証運行を実施されていますね。
赤石:酒蔵が集まるエリアですから、当然お酒を飲みます。飲んだら運転はできません。そこに自動運転の足を用意し、車内では酒蔵に関する情報案内も行います。まずは周回ルートでの実証ですが、飲酒を伴う観光地における新たな移動手段としての可能性が見えてきます。使い方が具体化することで、自動運転の普及する意義が明確になると思います。
戸松:まだ誰も課題として認識していなかったニーズに光を当てた好例です。自動運転によって酒蔵エリアを回遊しやすくなるという世界は、課題の解決というより、実現すればこれほど豊かな日常になるという新しい可能性の提示にあたります。
私はこれを「社会可能性」と呼んでいます。まだ存在しておらず、問題にもされていないけれど、実現すれば確実に価値が生まれるというものです。共創の種はそういうところにあると考えています。
ただ、社会への実装となると自動車会社だけでは完結しません。都会は既存の交通手段が充実しているため行動変容が起きにくく、本当に足が必要な地方では事業として成立させることが難しいという構造的な課題があります。


