ChatGPT(チャットGPT)が登場して以来、AI導入に関する議論はもはや「使うべきかどうか」ではなくなった。今、リーダーたちが問いかけているのは、「なぜ期待したほどの成果が得られないのか?」ということだ。その率直な答えは、テクノロジーを取り巻く人間の対応力(ケイパビリティ)が大きなボトルネックになっているからだ。
Epitomeでは、アジア、欧州、中東におよぶ130万件のキャリアプロファイルのデータを分析したが、そこにはまったく同じパターンが現れている。ほとんどの労働者は、レポートの作成、キャンペーンの起草、シナリオの構築といった業務において、高いデジタルリテラシーを示している。しかし、AIが生成した出力を実際のビジネス文脈に照らし合わせて評価するために必要な、意思決定、コンピューテーショナル・シンキング(計算論的思考)、および判断力に自信を持っている労働者は、はるかに少ない。
テクノロジーの民主化は、それを適切に使いこなすための判断力が育つよりも早く進んでしまった。そのため、組織がAIを導入する際、最も陥りやすいボトルネックは、AIの出力結果の正確性を評価し、適切なビジネス文脈で解釈し、自らが責任を持てる意思決定を下す能力の不足に起因するものとなる。
組織が成功を収めるための差別化要因は、ツールそのものではない。ツールを使う人間の能力(ケイパビリティ)なのだ。
グローバルな人材戦略を形作る3つのシグナル
過去18カ月の間に、リーダーが人材戦略を考える際の見方を一変させるべき3つのトレンドを目にした。
1. AIの導入ペースが個人の能力向上を追い越している
AIリテラシーは今や基本中の基本として期待されているが、現在の人材不足は技術的スキルの分野で起きているのではない。AIを活用した業務を監督・管理し、その成果を判断する能力が不足しているのだ。当社のデータによると、AIに対応できる人材に特徴的な行動(不完全なツールを根気強く使いこなすこと、生成される成果の限界を押し広げようとする好奇心、および失敗から内省的に学ぶ姿勢)を常に示しているプロフェッショナルは、およそ5人に1人にすぎない。今後、最も価値ある人材となるのは、技術的な理解とビジネス上の判断力を、ひとつの会話の中で自在に行き来できる人物だろう。
2. 採用と解雇のサイクルは、人員削減ではなく「能力の再配分」である
大手テック企業が人員削減を行い、高度な技術や分析、部門横断的な役割において厳選採用を導入していることが報じられている。しかし、こうした動きは、AIの台頭を前に人材戦略を縮小させているわけではない。人材の能力(ケイパビリティ)を再配分しているのだ。例えば、職務においてテクノロジー、ビジネス、リーダーシップが融合し始めるにつれ、分野横断的な思考の価値が高まっている。これを適切に行いたい組織は、能力ベンチマークを活用し、誰を再配置し、誰を育成すべきか、そしてスキルを中心に次の職務をどう設計すべきかを判断するとよいだろう。
3. アジアが世界的な基準を引き上げている
2025年を通じて、アジアのいくつかの国々が人材のバリューチェーンを駆け上がった。例えば、これまで主にビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)の戦略的拠点と見なされていたフィリピンは、現在ではデジタルサービスや知識労働(ナレッジワーク)の分野へと進出している。一方で、ベトナムのエンジニアリングおよび製品開発分野は加速しており、インドはAIエンジニアリングとデータサイエンスのハブへと進化している。
これは、コスト削減(コスト・アービトラージ)のみを目的とした一時的な流行ではない。アジアのプロフェッショナルが欧米などを拠点とする職務をめぐって直接競合するようになる中で、グローバル企業は、現地の資格や学歴に頼るのではなく、一貫した能力基準を適用し始めている。この傾向は、複数の大陸に拠点を持つ企業の社内異動に関する議論をも変えつつある。今や、本社の近くにいることが役職の高さ(シニアリティ)を示す自動的な指標ではなくなったのだ。
組織が取るべき対応策
急速な技術変化に直面したとき、成功する組織は概して次の3つの方法で対応している。
1. 人員数だけでなく「能力(ケイパビリティ)」を可視化する: 人員数は「何人が働いているか」を示すにすぎず、組織が「どのような意思決定を下す能力を備えているか」は教えてくれない。人材戦略に真剣に取り組む企業は、意思決定、分析的推論、協働(コラボレーション)の分野で体系的なアセスメントを行い、どこに能力のギャップが存在するかを特定している。その結果、不確実性の高い外部からの新規採用にすぐに頼るのではなく、社内での育成や再配置に的を絞ることができる。
2. 職務記述書ではなく「能力」を中心に役割を設計する: 業務の流動性が高まるにつれ、マーケティングマネージャーやオペレーション責任者といった役割は細分化しつつある。今日のマーケティングマネージャーは、データの解釈者であり、AIワークフローの推進者であり、ブランドの評価者でもある。オペレーション責任者もまた、自動化の監督者であり、アナリティクスの活用者だ。しかし、実際の業務の変化に伴って職務記述書が頻繁に更新されることは稀である。役割を「能力の集合体」として扱い、それに基づいて候補者を評価することで、そのギャップを埋めることができる。
3. 外部から調達する前に「社内で育成する」: スキルギャップが生じた際、多くのビジネスリーダーは直感的に外部採用に頼ろうとする。しかし、既存の従業員は、新しく採用された人が最初の1年で学べる以上の自社ビジネスに関する知識をすでに持っているため、その決断は誤りであることが多い。先見の明がある組織は、より早い段階から自社の人材への投資を選択している。一般的なアプローチとしては、従業員を部門横断的なプロジェクトに配属すること、有望な人材を変革プロジェクトに配置転換すること、マネージャーにAIを活用したワークフローにおける挑戦的な責任(ストレッチアサインメント)を与えることなどが挙げられる。
能力(ケイパビリティ)は、人材に関するすべての意思決定を支えるオペレーティングシステム(OS)である。したがって、今後数年間で他社を凌駕するであろう企業は、単に最も優れたAIツールを保有している企業ではない。どの従業員がそれらのツールを使いこなせるか、誰がそれらを監督できるか、そしてAIがまだ定義していない新たな役割へと適応していけるかを、最も明確に見極めている企業なのだ。



