今ほど、変化を的確に乗り切り、多様なステークホルダーの足並みをそろえ、不確実な環境で健全な意思決定を行い、複雑性が増すなかで効果的に実行できるリーダーが組織に求められている時代はない。
こうした状況を受け、リーダーシップ・アジリティは、最も必要とされるリーダーシップ能力の1つとなっている。組織は、素早く適応し、変化に効果的に対応し、不確実性を自信を持って乗り切れるリーダーを求めている。それには十分な理由がある。
人工知能(AI)は変化のペースを加速させ、働く人々の期待も進化し続けている。組織は、混乱、複雑性、曖昧さの増大に直面している。素早く適応する能力は、リーダーにとって大きな優位性となっている。
しかし、アジリティが重視されているにもかかわらず、多くの戦略的取り組み、組織変革、リーダーの意思決定は、依然として意図した成果を達成できていない。リーダーが状況とそこに関わる人々の双方を読み違えるためである。
- 抵抗が生じる。
- ステークホルダーの足並みが乱れる。
- 実行のスピードが落ちる。
- 信頼が低下する。
- 機会を逃す。
こうした課題は、しばしば実行の問題として扱われるが、実際には診断の問題である。
アジリティをめぐる多くの記事、研究、研修は、重要な現実を見落としている。
効果的なリーダーシップ・アジリティは、状況認識から始まる。なぜなら、リーダーの対応の質は、その状況をどれだけ深く理解しているかに左右されるからである。
組織変革に関する研究、意思決定、ステークホルダー・エンゲージメントに関する知見は、実行上の課題が、不一致、抵抗、優先順位の競合、コミュニケーション不全といった問題に根ざしていることが多いと示唆している。筆者の経験でも、こうした課題は、リーダーが文脈や関係するステークホルダーを十分に理解する前に対応してしまうことから生じる場合が多い。
問題は、リーダーに知性、努力、コミットメント、行動が欠けていることではほとんどない。むしろ、多くの場合、核心にあるのは、どのように対応するかを決める前に、関わる文脈とステークホルダーを正確に診断できていないことである。
課題は、リーダーが適応できないことではない。課題は、状況が何を求めているのかを十分に理解する前に、リーダーが適応してしまうことである。
状況認識とアジリティの相互依存性
状況認識と行動のアジリティは、しばしば別々に語られる。だが実務において、この2つは切り離せない。なぜなら、次のような関係にあるからだ。
- 行動のアジリティを伴わない状況認識は、洞察があってもインパクトを生まない。
- 状況認識を伴わない行動のアジリティは、知恵のない行動を生む。
リーダーシップの有効性には、その両方が必要である。重要で複雑な状況に直面したとき、リーダーが行うべき転換は、次のような視点から離れることだ。
どうすれば自分の主張を伝えられるか。
そして、次の視点へと移ることである。
この状況は、自分に何を求めているのか。
この視点の転換は、すべてを変える。リーダーを、証明する、防御する、説得する、コントロールするという姿勢から、理解する、診断する、適応する、影響を与えるという姿勢へと移行させる。
その違いは微妙に見えるかもしれないが、リーダーが対話、意思決定、変革の取り組み、ステークホルダー管理、組織課題に向き合う方法を根本的に変える。
状況認識と行動のアジリティは、筆者が開発したアダプティブ・パフォーマンス・モデルにおける中核能力の2つである。このフレームワークは、不確実で、感情が絡み、複雑で、重要度の高い状況において、リーダーの有効性を高めることを目的としている。
状況認識は、状況が何を求めているのかをリーダーが理解する助けとなる。
行動のアジリティは、それに応じてコミュニケーション、リーダーシップのアプローチ、行動を適応させる助けとなる。
この2つが組み合わさることで、リーダーがどのように対応し、必要に応じてリーダーシップのアプローチをどう調整するかが決まる。
状況を診断する
状況を理解しないリーダーシップは、地図を持たずに進路を探すようなものだ。意思決定、優先順位、行動は、方向性、関連性、有効性を欠きがちになる。
あらゆる状況に最適な単一のリーダーシップスタイルは存在しない。有能なリーダーは、どのように対応するかを決める前に、まず関わる文脈とステークホルダーを理解しようとする。状況を診断するには、好奇心と勇気の両方が必要である。
好奇心がなければ、リーダーは過度に確信を持ってしまう。
勇気がなければ、リーダーは見るべきものを避けてしまいがちである。
効果的な状況認識には、その両方が必要だ。状況が何を求めているのかを理解することは、関わる文脈とステークホルダーの双方を理解することから始まる。
文脈
適応力のあるリーダーは、状況の4つの側面を評価する。
- 現在の状態
- 中核となる課題または目的
- 機会
- リスク
ステークホルダー
適応力のあるリーダーは、ステークホルダーに関する次の4つの重要な側面も理解しようとする。
- 優先事項
- 視点
- 懸念
- ニーズ
目的は合意ではない。目的は、状況と、その状況がリーダーに何を求めているのかを理解することである。
すべての状況に深い分析が必要なわけではない
状況認識はチェックリストではない。拡張可能な能力である。日常的な意思決定や慣れた状況では、通常、詳細な評価は必要ない。
しかし、状況の重要性、複雑性、不確実性、感情的要素、ステークホルダーへの依存度、あるいは元に戻すことの難しさが増すほど、リーダーは分析を深めなければならない。
- 戦略的意思決定
- 組織変革
- 対立を伴う状況
- 重要度の高い対話
- 危機的状況
こうした状況では、文脈やステークホルダーを誤解した場合の影響がはるかに大きいため、より深い評価が必要となる。有用な原則はシンプルである。
重要性、複雑性、不確実性、感情、ステークホルダーの関与、結果の重大性が大きいほど、より深い状況認識が求められる。
認識はいかにアジリティになるのか
状況認識は不可欠だが、認識だけでは十分ではない。
- 認識は、状況が何を求めているのかをリーダーに示す。
- アジリティは、それに応じて対応することを可能にする。
リーダーがその理解を効果的な行動へと転換しない限り、状況を理解してもパフォーマンスは向上しない。ここで、行動のアジリティが決定的に重要になる。
行動のアジリティを実践する
行動のアジリティとは、自らの価値観と目標に沿った状態を保ちながら、状況が求めるものに基づいて、コミュニケーション、リーダーシップスタイル、行動を意図的に適応させる能力である。
リーダーシップの有効性は、リーダーがどれだけ素早く適応するかで決まるのではない。自らの価値観と目標に忠実でありながら、状況のニーズにどれだけ効果的に適応できるかで決まる。
組織にとって有益なのは、単により速く反応するリーダーではない。より良い意思決定を行い、より強固な足並みを築き、抵抗をより効果的に乗り切り、複雑な環境で成果を出せるリーダーである。
アダプティブ・パフォーマンス・モデルにおいて、状況認識は、状況が何を求めているのかをリーダーが判断する助けとなり、行動のアジリティは、それに応じた対応を可能にする。
AI、不確実性、絶え間ない変化によって特徴づけられる時代において、組織には効果的なリーダーシップ・アジリティを示すリーダーが必要である。だが効果的な適応は、状況認識から始まる。
リーダーは、どのように対応するかを決める前に、まず状況が何を求めているのかを見極めなければならない。
なぜなら、リーダーの対応の質は、最終的にはその認識の質によって制約されるからである。
最も大きなインパクトを生み出すリーダーは、最も速く反応する人であることはまれだ。状況認識と行動のアジリティを組み合わせ、より良い意思決定を行い、より強固な足並みを築き、より効果的に実行するリーダーなのである。



