ビジネスリーダーは、良いものを見つけると、つい行き過ぎてしまう傾向がある。イエローページ(職業別電話帳)をオンライン化するようなアイデアであれ、AIのようなテクノロジーであれ、事業成長に役立つなら、おそらく過剰に使われることになる。成長の追求が大きな危機を招くこともある。
いま、多くのリーダーが、マーケティングやコンテンツ制作にAIを使えばスピードと成長が得られると見込んでいるように見える。彼らは取り残されることを恐れている。その一方で、成長の本当の源泉を見失っている。
私はこれまでのキャリアの中で、このようなシナリオが何度も繰り返されるのを見てきた。新しいテクノロジーが、突如としてビジネスが抱えるあらゆる課題への解決策になるというシナリオだ。
ビジネスリーダーにとって、これは難しい綱渡りであることは承知している。新しいテクノロジーの導入が遅すぎれば、競合に追い抜かれるかもしれない。新しいテクノロジーを急ぎすぎたり、過度に受け入れたりすれば、物事は壊れ始める。
すべては信頼に帰着する。あなたは信頼を育てているのか、それとも失っているのか。私たちが下すあらゆるビジネス上の意思決定、とりわけ新しいテクノロジーを導入する際の判断は、顧客の信頼という観点から検討されるべきである。
あなたは顧客により大きな価値を提供しているのか、それとも本物の人間的なつながりを築く機会を軽視しているのか。その答えは、あなたのブランドと、今後10年で事業がどこへ向かうのかを雄弁に物語る。
ブランドは一日にして成らず
強欲とスピードは、信頼の敵である。私が注力している金融サービスのような業界では、信頼こそがすべてだ。米国のすべての紙幣には「trust(信頼)」の文字が刻まれており、これらの紙幣は米国政府の完全な信認と信用によって裏付けられている。私たちの金融システムは、アメリカ合衆国というブランドの上に成り立っている。そして信頼は、ブランドの基本単位である。
金融機関に、信頼を築き、それを守るにはどうすればよいかと尋ねれば、こう答えるだろう。「約束を守ること。そして失敗したら、正すことだ」
その答えは正しいが、今日の市場では十分な範囲をカバーしていない。企業として行うことはすべて、信頼を築くか、信頼を損なうかのどちらかである。
理性の声
これがAIとどう関係するのか。あなたやあなたのチームが、AIに会社の「声」を代弁させているとき、あなたは自社が持つ最も強力なレバレッジを損なっている。誤解しないでほしいが、AIは変革をもたらすテクノロジーだ。しかし、それが顧客との信頼関係をいかに壊しているかにすら気づいていないビジネスリーダーを、私は目の当たりにしている。
私は単に、メールやSNS投稿、ブログ記事、広告の作成をAIに任せることについて話しているのではない。ブランドとは会社の「声」である。すべての顧客接点(タッチポイント)は、オーディエンスとの本物の、人間的なつながりを生み出す機会だ。ほとんどの企業がマーケティングにAIを導入している方法は、そうしたつながりを助けるどころか、むしろ妨げている。
問題は、より良いプロンプトを書くことや、より適切なコンテキストを提供することではない。多くの場合、顧客は投稿やメールの作成にAIが使われたことに気づきすらしないかもしれない。しかし、AIが生成したコンテンツだと「気づいた」ときこそが、大きな代償を払うことになる瞬間なのだ。
自分自身の経験を振り返ってみてほしい。明らかにAIが生成した「個人的なメッセージ」を誰かから送られたとき、どう感じるだろうか。もしあなたも私と同じなら、それがAIによるものだと知った瞬間にメッセージの重みは失われ、直感的に反応してしまうだろう。これは、ロボットやコンピューターが生成した顔がリアルに見えるものの、どこか不自然で不気味に感じられる「不気味の谷」現象と関係している。
AIが生成した投稿や動画を1本出しただけで、ブランドが侵食されるのを目にすることはない。それは静かに起こる。最初はゆっくりと。そしてやがて止められなくなる。まるでスローモーションで進行する列車事故のように。
だからこそ、ブランドの声は人間的で、本物で、完全に自分たちのものにしておくべきなのである。
機械のためではなく、人間のためのビジネスを
多くの人々が現在、大きな転換点にいると感じており、巨大な機会を逃すことを恐れている。AIが差別化要因のように見えるかもしれないが、そもそも顧客があなたのブランドを選ぶ理由はそこではない。彼らは、あなたが自分たちの課題を解決し、より深いつながりを感じさせてくれると信じたいのだ。
マーケティングにおける安易なAIの利用は、つながりを阻む障壁となり、信頼の障害となる。
フィンテックや金融サービスのブランドにとって、信頼は贅沢品ではない。それはまさに生命線である。
すべてを変えると約束したほかのテクノロジーでも、私たちは以前に同じ場所に立ったことがある。勝ち残った企業は、自社のブランドと顧客に忠実であり続けた。



