#2 主権には「コスト」が伴うこともある
英国のEU離脱に批判的な人たちのなかには、ブレグジットは結局、離脱派陣営の多くの人が主張していたような高い成長につながらなかったではないかと言いたがる向きがある。実際、米スタンフォード大学のある経済学者の推計によると、現在の英国経済はEUに残留していた場合よりも最大で8%縮小している可能性がある。
だが、ブレグジットはたんなる経済政策ではないというのが筆者の考えだ。これは、国の統治のあり方をめぐって英国民が下した決断であり、選挙で選ばれていない官僚たちからなる委員会から英国の政治と文化を取り戻すという彼らの意思表示だった。10年前に書いたことを繰り返すなら、「英国の国民と企業は、成長とイノベーションを停滞させる原因となった、ブリュッセル発の失敗続きの社会主義的な規則や規制の山にうんざり」していたのだ。
これに関して含蓄のある言葉だと思うのは、英国の伝説的な映画俳優であるマイケル・ケインが語ったものだ。現在93歳になるケインは2017年のインタビューで、自身がブレグジットに賛成票を投じた理由をこう説明した。「豊かな召使いでいるよりも、貧しい主人でいたい」
10年前、英国は、召使いではなく主人である道を選んだ。それが賢明だったのか愚かだったのかは別にして、これは経済学者のスプレッドシートでは計算できない面がある行動だ。
#3 「配当」を受け取ることも忘れずに
あらためて言えば、ブレグジット後の英国にサッチャー時代のような好景気は訪れなかった。だが、重要なのは、それが実現しなかった理由を理解することだ。
不都合な真実を言おう。英国は実のところ、EU離脱を決めたあと、自ら勝ち取った自由をほとんど活用してこなかった。米シンクタンクのケイトー研究所によると、英政府はいまもなお7000本近くのEU法を国内法として残している。大規模な規制撤廃は行われなかった。
一方、英政界はどうなったか。10年間で5人の首相が交代し、うち1人の在任期間はわずか49日だった。
とはいえ、英国の政治家も何もしてこなかったわけではない。EUの厳格な保険規制である「ソルベンシー2」を見直し、国民投票後、ロンドン保険市場の規模は1870億ドル(約30兆円)に倍増した。これは引き続き世界最大である。


