星野リゾートが展開する、都市を楽しむホテルブランド・OMO(おも)。街に惚れ込みご近所づきあいもあるスタッフ「OMOレンジャー」が出迎えるホテルだ。
観光案内はどこのホテルにもあり、AIで下調べも済むご時世、OMO起点の都市観光はどうユニークであれるのか。OMO7高知で出会った“レジェンズ”に、ブランド固有のもてなしの精神をみた。
サブブランドの輪郭を炙り出す!
連載企画「the LOCAL LEGENDS」
星野リゾートのブランドを語れるのは、代表の星野佳路氏だけではない。各地に展開するサブブランドを背負うスタッフこそが、ブランドの姿をもっとも雄弁に物語るのではないか。本連載では、ブランドの価値観を理解し、その旗印を背負って現場に根を張る人物——ローカルに散らばるブランドの語り部「レジェンズ」たちに取材。各ブランドのエッセンスを抽出したい。
OMOパートは、高知の街に惚れ込むスタッフ3人を迎える。
玄関先にある舞台と大階段。その横に鎮座する木彫りの土佐犬が、訪れるゲストを出迎える。OMO7高知。左手にあるレセプションに進むと、すぐ右手には大きな地図が掲示されているのが目に留まる。近隣の飲食店などの情報がまとめられたご近所マップだ。
高知県で有名な事柄と問えば、多くの人は坂本龍馬やカツオと答えるかもしれない。各都道府県にも、知名度に差はあれど著名な魅力はあるだろう。しかし、OMOに滞在して出会えるのは、そればかりではなく、ハレとケを含めた「街の素顔」。地元の人を介さないと知れないような魅力を知ることができるのだ。
この手助けをするのは「OMOレンジャー」を名乗るスタッフたち。地元の人々と協力しながら、街と宿泊客を施設の内外で多層的につないでいく。原動力は、自身の好きやこだわり、つまり「偏愛」をゲストに伝えようとするおせっかいさだ。
よさこいに惚れ込み、街を知る
OMOは星野リゾートが2019年に立ち上げた都市観光を楽しむホテルブランド。しばしば無味乾燥になりがちな都市部でのホテルステイに対し、「テンションあがる『街ナカ』ホテル」をコンセプトに掲げ、北海道から沖縄まで現在全18施設を展開する。旅の目的や過ごし方に合わせてサービスの幅を3,5,7と分けているほか、関西空港にはエアポートホテルもある。OMO7高知は最も幅広いサービスを提供する7がつく。
前身のホテルから施設を引き継ぎ、オープンから2年あまり。象徴的といえるのが、OMOブランドが全18施設で展開している、その街ならではの夜を楽しむ仕掛け「ローカルリズムナイト」。OMO7高知では、「よさこい楽宴LIVE」が毎晩行われる。
高知の「よさこい祭り」は毎年8月9日からの4日間で実施されるが、OMO7高知オリジナルのよさこいショーとして開催している。高知伝統の祭りをいつでも見られるようにと、スタッフが踊り手となり、毎晩開催しているのだ。
玄関の大階段の中段にある四方約6メートル舞台でよさこい踊りを披露するのは、この施設で働くスタッフたちだ。午後1時すぎ、その日の踊り手5人が立ち位置などを確認する「場当たり」が行われるは日々のルーティン。よさこい楽宴LIVEに並々ならぬこだわりを持つのが、5人の踊り手を率いていたスタッフの木村緑と加藤大雅。今回のレジェンズたちだ。


ふたりはそれぞれOMO7高知の開業に合わせて他施設から異動し、よさこいショーをイチからつくりあげてきた。日々、フロント対応や客室清掃といった施設業務をマルチにこなす傍ら、よさこい楽宴LIVEでは中心となって踊る。
「スタッフ自ら踊っているんですねとゲストにはよく驚かれます」と話すのは木村だ。
宮崎県に生まれ、幼少期より日本舞踊に親しんだ。星野リゾートに新卒入社後は、星のや軽井沢、星のや沖縄で経験を積み、OMO7高知の開業に際して「よさこいを踊れること」を決め手に異動した。
よさこい楽宴LIVEは3部で構成。ラストで披露する演目は完全オリジナルで、季節によって内容も変える力の入れようである。振り付けは、現代よさこいの火付け役の一人、國友須賀の長男である國友裕一郎氏が担当。開業前の数カ月間、木村をはじめとするスタッフは國友氏からよさこいの振りを叩き込まれ、その過程でよさこいを継承することの想いも直接聞いた。
「よさこいで世界をよくしようと熱い思いに感化されました。踊りはもちろんなのですが、衣装や楽曲などでも地元の方々からの協力をいただいてつくっている舞台で、これは本当にすごく贅沢なこと。私たちが演舞で披露して、お客様へよさこいを伝えていく責任もあると思えました」
「よさこい祭りは年に4日だけですが、私たちは365日披露させてもらっている。よさこいを見たゲストの数をざっと見積もると、開業当初からだと延べ7万人。伝統文化を持続可能にしていく取り組みに、少しは貢献できているのかな」。こう話すのは加藤だ。
京都府にある老舗酒蔵で生まれ育った。伝統文化をいかに保存していくか、それも観光の力を活かしてどうしていくべきか。これらは自身の生育環境と相まって、加藤のもっぱらの関心事だった。
星野リゾート入社後は、「界」などを渡り歩いたが、よさこいに惹かれ、本人曰く「軽い気持ちで」OMO7高知の開業メンバーに名乗り出た。踊りの経験はなく、よさこいの習得は「100時間以上かかった」と一苦労だったが、習得の過程で高知の人々との交流を深めていく。
「ここで売ってるチーズケーキがおいしい」「屋台餃子を食べるならここだよ」「ひろめ市場行った?まだ行っていないなら一緒に行こう」。教えられ、誘われることは高知にやってきた木村、加藤のふたりの日常になった。
「聞いてないけど色々おすすめしてくれる。おせっかいさと人の暖かさで、高知にすんなり溶け込めました」(木村)「私が伝統文化を次世代に繋げていきたいと話すと、『高知大学の先生を紹介するよ』『鳴子の製造工場に行こう』などと声をかけてくれて。皆さんから高知の街の文化や魅力を教えてもらいました」(加藤)
すっかり高知に魅せられた木村と加藤は、自分たちが高知に迎え入れられたように、今度は自らがゲストに対して、おせっかいに高知の魅力を伝えている。木村であればフロントデスクを飛び出してゲストに観光情報を伝え、ダイニングでカツオの藁焼きも披露している加藤は「葉にんにくの『ヌタ(高知の伝統的な調味料)』がおすすめですよ」と、おすすめの食べ方も添えて料理を差し出す。


夕飯のダイニングが終わり、開演の21時が近づくと、大階段に座布団が敷かれて客席になり、夕食を終えた宿泊客が続々と集まる。21時、会場は暗転して、呼びかけを合図にライブが始まった。
「こじゃんと、楽しんでいってやー!」
鳴子の音と軽快な音楽が鳴り響き、カラフルな衣装を身にまとったスタッフたち5人が汗を飛ばしながら満面の笑みで舞い踊る。2部にはゲストが鳴子を鳴らして参加するパートが挟み込まれ、気恥ずかしそうにしていたゲストも、踊り手スタッフに煽られて徐々に姿勢も前のめりに。鳴子を鳴らしたり、歌を口ずさんだり、誘われるまま共に踊ったり……と、よさこいを思い思いに楽しむ宵が更ける。



(写真上)ステージ衣装も季節により変わる。取材時は春の装い。(下左)よさこい楽宴LIVEの2部、ゲストが参加してのライブの一幕。ゲストもだんだんノリについてくる。 (下右)終宴後は、季節の日本酒をおつまみと楽しめる「よさこい楽宴プレート」も販売。盛り上がりの余韻もあってか、販売カウンターは夜がふけるまで賑やかだった。
「高知は負けちゃあせん」。土佐っ子が街の日常へ誘う
OMO7高知では街の魅力に出会う仕掛けとして、地元ならではの食材や特産品、名物に次々と出会える木曜市やスーパーマーケットを巡るツアー、日曜市講座などのプログラムを提供する。
開業当初からツアーガイドを務めるスタッフの池内里早も今回のレジェンズのひとり。生粋の土佐っ子で、地元愛は人一倍。「観光といえば北海道や沖縄が話題になりがちですが、『いや、高知も負けちゃあせんよ』と思います」。
生まれも育ちも高知県。幼い頃から街路市のことはもちろん知っていたが、通いつめるほどではなかった。
ツアーガイドの担当になってからは「まずは市のお店の人と仲良くなりたかった」。まずは池内個人として通勤の前や休日などに小まめに足を運ぶ日々を送り、「この間も来てくれたあの子」になり、今では市を歩けば、「髪切った?よう似合っちゅうね」「この小夏、おいしいから持ってって」とあちこちから声をかけられるほど深い顔なじみとなった。OMO7高知のスタッフをして「街路市のアイドル」と言わしめるほどだ。


スーパーマーケットツアーでは、地元の買い物客に紛れながら、地場野菜、ポン酢、芋けんぴ、地元で有名な焼肉のタレといった商品を次々に紹介して回る。ひとしきり店内を回ると、参加ゲストはあれもこれもと買い物カゴをいっぱいにし、満足そうにレジ待機の列に並ぶのだ。
「スーパーの棚で、たとえば『ゆず』の話ができるようになったのは、街路市で店主さんに教えてもらったからですね。わからんことがあったら素直に聞いています」。
木曜市では池内を見かけるや店主が声をかける。この日は「今日は取材に来ちゅうがですよ」とフランクに店を回りながら、池内は今の街路市の現状も把握している。
「高齢化で街路市全体の出店数が昔に比べてすごく減っていて。先代の思いを継いでお店に立たれている方もいるし、私自身も市を途絶えさせたくない。街路市はワイワイ賑やかで楽しそうでいいんですけど、店側の裏の思いも大事にしてきたいとも思います」
訪れた都市が「第二の故郷」になるかもしれない
池内個人がゲストと高知県民との橋渡し役となって伝えるのは、観光情報サイトが取り上げない「飾らなさ」。体験してほしいのは人との関わりと池内は話す。
「星野リゾートそのものや、『カツオと龍馬』目当てで来てくださった方でも、高知を好きになってもらいたいからおせっかいをはたらきたくなる。観光に来ても、街に関わろうと踏み込むには勇気がいると思いますから、私たちが背中を押す以上に、もう店の入り口まで引き連れていくぐらいの勢いで、もてなしたいですね。焼きすぎるぐらい世話を焼く。それによって、お客様には、知らなかったことを知って楽しんで、『また戻ってきたいな』と思えるような場所になっていってほしいと思います」
OMOに集まるおせっかいで世話焼きなOMOレンジャー(スタッフ)たちのメンタリティは、池内個人には「OMOが高知県民のことを真似したんじゃないの?」とも映るようだ。
OMOは、有名な観光地・観光資源に触れるだけでは終えることができない、街全体での魅力を味わう、旅の起点となるホテルといえるかもしれない。そしてそれは、OMOレンジャーたちの街への偏愛から生まれる「おせっかいさ」がなければ成立しない。
体験したゲストは、その街の人と触れ合い、街のことをより深く知ることで、街を好きになり、池内の言うように「ただいま」とまた訪れたくなるだろう。都市観光ににおける新たなホテルのあり方を、OMOは生み出している。
きむら・みどり◎ 宮崎県出身。2015年新卒入社。星のや軽井沢・富士・沖縄で経験を積んだ後、「よさこいを踊りたい」とOMO7高知の開業公募に自ら志願し異動。夜間シフトを中心にフロントや夕食ダイニング、宴会運営を担当しつつ、よさこいチームのリーダー的存在として、難易度の高い振り付けをいち早く習得し他メンバーへ指導している。
かとう・たいが◎ 京都府出身。2019年新卒入社。石川・北海道・長崎「界 雲仙」等で勤務後、街と共に魅力を作るOMOブランドの特性に惹かれ、OMO7高知の開業に志願、よさこいの踊り手にも挑戦。フロントや客室清掃に加え、夕食ダイニングの「鰹の藁焼き職人」も担当。文化とビジネスの持続可能なWin-Win関係の構築を目指し、年間数万人のゲストに高知の文化を伝える。
いけうち・りさ◎ 高知県出身。幼少期から地元和菓子屋の手伝いで地域行事や商店街での販売に携わり、コロナ禍のアルバイト経験を機に手作りの掲示板「土佐っ子通信」を発信。食品会社勤務を経てOMO7高知へ転職。街を案内するOMOレンジャーとして「街路市のアイドル」と呼ばれ、店主との関係を築きながら人の顔が見えるストーリーを手渡している。




