インドのスパイアクション映画、『ドゥランダル作戦』(2025年、アーディティヤ・ダール監督)が、10日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)などで全国公開される。2001年のインド国会議事堂襲撃や2008年のムンバイ同時多発テロなど実際に起きた事件をベースにした。2025年にインド映画界で大ヒットを記録し、日本のほか、ドイツやフィンランドでも公開されるなど、関係者が世界進出を狙う起点にしたいインド映画だ。
相次ぐテロ事件に悩まされたインド政府は極秘裏に「ドゥランダル(剛の者)作戦」を始める。主人公の死刑囚ハムザ(ランヴィール・シン)がパキスタンの都市カラチでも治安の悪さで有名なリヤリ地区に向かう。ハムザは、事前にテロ情報をつかむため、地区を牛耳るギャング組織に潜り込む。
映画は3時間を超える大作。ムンバイを中心にヒンディー語とウルドゥー語を使った映画産業「ボリウッド」作品らしく、映画のあちこちに歌と踊りが埋め込まれている。同時に、実話をそのまま映画のベースにしたことで、リアリティーを持たせた。インドの軍や諜報機関の場面では、現実の世界そのままに、ヒンディー語と英語を交えた会話が繰り広げられる。
また、映画では、インドとパキスタンの対立を描いているため、パキスタンで一時劇場公開が制限されたほか、パキスタンと安全保障条約を結ぶサウジアラビアなど、湾岸諸国の多くでも公開が見送られたという。
インドは、最も話者が多いヒンディー語でも母語話者は全体の4割ほどにとどまる多言語社会だ。映画界も従来、ボリウッドと、タミル語などを使う南インド映画がそれぞれの地域で発展してきた歴史がある。2010年代に入り、ヒンディー語への吹き替え版などを利用してインド全土で上映される「汎インド映画」が登場するようになったという。「ドゥランダル作戦」もその一つに数えられるという。
こうした流れがある一方、インドのモディ首相率いる与党、インド人民党は、国民の8割を占めるヒンドゥー教の文化によってインドを統合しようとする「ヒンドゥー至上主義」を掲げる。6月から日本で順次公開されるインド映画『わたしの聖なるインド』(2023年、ノウシーン・ハーン監督)は、少数派として困難な状況におかれたイスラム教徒の女性たちの姿を描いている。両作品とも、インド社会の現実をそれぞれ映し出していると言えるだろう。
折しも、高市早苗首相は2日、就任後初めてインドを訪問した。高市氏はモディ首相と会談し、安全保障、経済安保・エネルギー、経済成長の3分野で協力を確認する共同声明を発表した。高市氏は共同記者発表で「戦略的な方向性を共有する信頼のパートナーとして、兄であるモディ首相とともに日印関係を新たな高みへと引き上げていく」と語った。
ただ、多面的な顔を持つインドが、日本の思惑通りに動くとは限らない。インドに駐在経験がある元政府高官は「インドは全方位外交を展開し、非同盟主義や戦略的自立性を重んじてきた。その戦略は何もぶれていない」と語る。高市氏はインドについて、自らが発展させたと胸を張る「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の貴重な同志国と考えているようだ。ただ、別の元高官は「インド洋の安全保障に限れば、そうだろう。ただ、インドは北部の山岳地帯などの安全保障では日本や米国を頼りにはしていない」とも指摘する。
インドは2023年には中国を抜いて世界最大の人口を持つ国になった。GDP(国内総生産)でも、数年内にドイツを抜いて世界第3位になるとみられている。世界で影響力を増しているインドを知るうえで、「ドゥランダル作戦」と「わたしの聖なるインド」を見ておいても損はないだろう。



