無理をしない健康。習慣になる豊かさ
この施設が目指す健康は、ストイックな自己管理ではない。
「無理な運動や、無理な食事制限ではなく、本当にやってみようかなと思えるきっかけを作りたいんです」
病院へ行くほどではないが、何かを変えた方がいい。そうした人に対して、検査や可視化を行い、無理なく自宅でも続けられる運動や食事の提案をする。健康とは、苦しい努力ではなく、日々の小さな選択の積み重ねだからである。
「3泊からお試しできますが、できれば1週間来ていただければ、その後本当に変わると思います」
ここで提供されるのは、完成された健康ではなく、人生に持ち帰ることのできる、習慣の種だという。
成功とは、コンセプトが伝わること
THE PASONA natureverse retreatは、パソナグループにとって観光事業を安定軌道に乗せるための重要な一手でもある。世界のウェルネス観光市場は拡大し、健康志向の富裕層需要も高まっている。
だが大日向氏は、成功を単に売上や利益では語らない。
「もちろん施設として成功したいです。でも、成功とは何かを考えた時に、私たちがやりたいのは、このコンセプトが伝わることだと思っています」
そのコンセプトとは、長寿だけを目指すことではない。心も体も健康で、自分らしく、生き生きと人生を歩み続けること。
そういう意味で、このリトリート施設内にニッカウヰスキー創業家の竹鶴孝太郎氏が手がける「Massan's Bar & Lounge」がオープンしたのも興味深い。
竹鶴氏は「リトリートなのにアルコールなのか、という議論もあった」と明かしながらも、「アルコールを飲みながら海を見ることもリトリートになるのではないか」と語る。確かにリトリートとは、日常から一時的に離れることによって、リフレッシュできる時間の過ごし方のこと。であれば、仕事やスマホを通じた情報から語源の通り「逃避」して、何もしない「贅沢」を味わうことはリトリートそのものであろう。
さらに「バーをメディアにしたい」ともいい、かつて欧州のクラブがそうであったように、飲み物を媒介に、知らない人同士が語り合い、打ち解け、新しい対話が生まれる場所にしたいという。健康を整えるだけではなく、偶然の会話から心をほどくことで、心も体も癒すことにつなげていく。
大日向氏も指摘する。「別にそんなに頑張らなくてもいい。誰かと競うわけではなくて、自分自身に感謝したり、自然に感謝したり、そういう気持ちになれることが、この施設の目的なんじゃないかなと思っています」
淡路島に生まれたこのリトリートは、富裕層向けの新施設であると同時に、私たちの社会が失いつつあるものを映し出す鏡でもある。
便利に、豊かになった社会。
それでも私たちは、本当に自分らしく生きているのか。
THE PASONA natureverse retreatが提供するのは、単なる休息ではない。人生や自分自身を、もう一度見直すきっかけである。そしてそれこそが、これからの時代における最も贅沢な旅なのかもしれない。


