レッドブルは世界中の若きイノベーターが起業家になる支援を行っている。今月初め、同社は40カ国以上から学生をサンフランシスコに招き、スタートアップのアイデアをピッチする機会を提供した。優勝者にはRed Bull Venturesから株式を渡す必要のない10万ドル(約1500万円)の資金と、Microsoft Azureの2万5000ドル(約375万円)分のクレジットが贈られ、参加者はシリコンバレーにどっぷりと浸かる体験ができた。Red Bull Basementは、世界中の起業家精神を持つ学生や初めて起業に挑戦する人々を支援するために設立されたアーリーステージのインキュベーターだ。このプログラムは、参加者が革新的なアイデアを実現可能な製品へと転換できるよう、リソース、ツール、メンターシップを提供している。
マイクロソフトのリーダーやベンチャーキャピタリスト、オリンピック選手、ビジネスやストーリーテリングのコーチたちの近くにいられることで、参加者はほとんどのスタートアップ創業者が夢見る「アクセス」を体験することができた。
イベントは数日間にわたるグローバルハッカソン形式で構成された。プログラムは教育ワークショップとメンタリングから始まり、その後アイデアを磨き上げるラウンドへと進んだ。参加者は最終的に審査員パネルの前でピッチを行った。「素早く動いて既存の常識を壊せ」と教えられてきた業界において、Z世代は新しいアプローチを取っている。共感を軸にしたエンジニアリングだ。そしてもちろん、AIも欠かせない。
Lifeline AIの創業者がグランプリを獲得
13万5000件のアイデアが提出された中から、今年の優勝者に輝いたのはダーネル・アドラーだ。2週間前に南カリフォルニア大学で工学の学位を取得して卒業したばかりの彼は、パーソナルセーフティプラットフォームLifeline AIの創業者である。このビジネスを立ち上げたきっかけは、親しい友人がキャンパス内で暴行を受け、助けを求める相手がいなかったことだった。既存の安全ツールは信頼性に欠けていたため、アドラーは新しいものを設計することを決意した。
「親友の1人が暴行を受ける状況に置かれ、私たちに連絡を取ることができなかった。既存の安全ツールは彼女の役に立たなかった」とアドラーは語った。
Lifeline AIは、緊急時にスマートフォンのロックを目立つ形で解除したり、電話番号をダイヤルしたり、声を出したりする必要をなくすよう設計されている。
「私は愛する人たちのためにLifeline AIをパーソナルセーフティツールとして開発した。そして今、それは世界中の人々のためのものになっている。Lifeline AIが目指すインパクトは、人々が助けを求める方法のグローバルスタンダードになることだ。そうすれば、安全か沈黙か、どちらかを選ばなければならない状況をなくせる」と彼は語った。
アドラーは機能を単なる新しい基準としてではなく、人々がスマートフォンを使って(そして彼がこの10万ドルの賞金で開発しているハードウェアを使って)助けを求める方法のグローバルスタンダードとして語っている。
「Red Bull Basementは、自分のビジネスを理解するためのツールとリソースを本当に与えてくれた」と彼は振り返る。「良いアイデアを持っているだけの人ではなく、創業者として考える方法を学ぶことができた」
詐欺経済に立ち向かうZ世代の創業者
サハスラ・ウプトゥルは、サウスフロリダ大学でサイバーセキュリティと法学予備課程を学ぶ19歳の学生で、自身のベンチャーでデジタル詐欺に取り組んでいる。Safe Step SecureはAIを使用して電話でのやり取りを監視し、詐欺パターンを特定し、リアルタイムで不正を検出する。高齢者やデジタルリテラシーの低い人々など、脆弱な人々を詐欺電話から守るために開発された。詐欺電話は多額の金銭的損失をもたらすだけでなく、心理的なダメージも与える。
父親が偽のインターネット料金割引詐欺の被害に遭った後、ウプトゥルは自ら行動を起こし、危険が生じる前に不審な活動を事前に警告するSafe Steps Secureを開発することを決めた。
「詐欺の検出は技術的な側面だけではない」と彼女は説明した。「信頼に基づくものだ。両親や祖父母がこうした電話やメッセージを受け取っているのを見ると、彼らが失うかもしれないお金のことだけを考えているわけではない。騙されたと感じることで生じる恐怖や恥ずかしさのことも考えている」とウプトゥルは語った。「サポートシステムを持たない人々のために、AIの『セーフルーム』エージェントを用意しており、何が起こったかを一緒に整理してくれる。単なる技術的なサポートではなく、感情的なサポートでもある」
しかし、金銭的負担も同じくらい重い。「世界中で毎年1兆ドル(約150兆円)が詐欺によって失われている」とウプトゥルは語った。今、彼女は他の人々が資産を、そしてより重要なこととして自分自身を守る手助けをする使命に取り組んでいる。
Red Bull Basementで彼女のアイデアを形にしたことは、このプログラムの象徴的なテーマを浮き彫りにしている。最も切実なアイデアは、自らが解決しようとする問題の当事者から生まれることがあるのだ。
女性リーダーシップのエコシステム
アドラーとウプトゥルの周りには、テクノロジー、AI、ベンチャーキャピタル、ストーリーテリング、スポーツなど多岐にわたる分野で活躍する女性たちがいた。それぞれが次世代の創業者を育成するために専門知識を持ち寄った。
Microsoft Azureプロダクトマーケティング担当コーポレートバイスプレジデントのジェシカ・ホークは、マイクロソフトがレッドブルとの提携を始めてから応募数が3倍になったと語った。これは、AIツールへのアクセスと安心して実験できる場が不可欠になっていることを示唆している。彼女はAIを「世界で最も辛抱強い教師」であり、学生起業家にとっての「プライベートコーチ」だと表現する。
「できる限り良いことは、何が可能かを学び、心配という認知負荷を機会へと移し替えることだ」とホークは語った。
「生成AIについて私がいつも興味深いと思っているのは、誰もが欲しいと思っていたプライベートコーチのような存在だということだ。アイデアがあっても、それが十分に良いかどうか確信が持てない場合、プライベートにそのアイデアを練り上げ、自信を築くことができる」と彼女は付け加えた。
ストーリーテリングの専門家サマンサ・パックマンは、若きイノベーターたちがビジネスのナラティブに自信を持てるよう支援した。「現実には、成功が宿るのはストーリーの中だ」と彼女は説明した。参加者との取り組みでは、感情的なプレゼンスに焦点を当て、何を伝えるかだけでなく、それを言うときにどう感じていたいかを準備することで、ステージ上で「特定のエネルギーを発信し、そのエネルギーを体現できる」ようにした。
オリンピックのマウンテンバイク選手でレッドブルアスリートのケイト・コートニーは、まさに勝者らしい言葉でイノベーターたちにマインドセットについてこうアドバイスした。「今この瞬間がブレイクスルーの成功になるかどうか、あるいはそれが予測もできなかった形で後から訪れるかどうかに関わらず、全力を尽くすことが、長期的にビジョンを現実にする上で成功を収めるための鍵だ」
財務面では、Red Bull Venturesの投資責任者サブリナ・ジョーンズが、AIは創業者が資金調達を目指す際に独自性を消すのではなく、高めるのに役立つと語った。
「私たちは依然として批判的に考える能力が必要だ」と彼女は言った。「AIを活用して能力を高めながらも、自分自身に忠実であり続け、私たちを定義するものや独自のアイデアを守ることが大切だ」
ビジネスでAIを活用し、ベンチャーキャピタリストにピッチする際について、ジョーンズはこう語った。「電卓と同じように、AIを活用して能力を高めなければならない。しかし同時に、自分自身と独自のアイデアや意見に忠実であり続けることも必要だ」
Red Bull Basementは単なるコンペティション以上のものだった。それは共感を軸に設計され、AIによって駆動される、人間中心のイノベーションのためのエコシステムだったのだ。



