2026年上半期、ベンチャーキャピタル(VC)は「世界モデル(ワールドモデル)」を構築する複数の新興企業に合計30億ドル(約4830億円。1ドル=161円換算)以上を投じた。世界モデルとは、言葉の並び方の規則性(テキストの統計的パターン)ではなく、環境の物理法則を学習するAIシステムである。
ヤン・ルカンは2018年、チューリング賞を受賞し「AIのゴッドファーザー」の1人に数えられている人物だ。ルカンは2025年11月にMetaを退社、 2026年3月には35億ドル(約5635億円)の評価額で10億3000万ドル(約1658億3000万円)のシードラウンドを実施した。これは欧州史上最大のシードラウンドである。こうした出資すべての根底にあるのは、次の基盤モデル(ファウンデーションモデル)は現実を「記述する」のではなく「シミュレートする」ものになるという確信だ。
大規模言語モデルのコモディティ化で資金が世界モデルへ
最前線の大規模言語モデル(LLM)がコモディティ化し、推論の利益率が圧縮されるのに伴い、投資家はAIスタックのどこに防御可能性があるのかを再評価している。スタンフォード大学のフェイフェイ・リーが設立したWorld Labsは2026年2月、資金調達後バリュエーション(ポストマネー評価額)54億ドル(約8694億円)で10億ドル(約1610億円)を調達した。これにより同社は、累計調達額を12億3000万ドル(約1980億3000万円)に引き上げた。
Decartは5月、40億ドル(約6440億円)の評価額で3億ドル(約483億円)を調達した。自動運転からのスピンアウトであるOdysseyは6月、14億5000万ドル(約2334億5000万円)の評価額で3億1000万ドル(約499億1000万円)のシリーズBを調達した。
ゲームプレイ映像からAIエージェントを訓練する新興企業General Intuitionは、1億3370万ドル(約215億2600万円)のシード調達から8カ月後、20億ドル(約3220億円)強の評価額で約3億ドル(約483億円)を調達する協議を進めている。同社のシードを主導したビノッド・コスラは、このカテゴリーから時価総額1000億ドル(約16.1兆円)規模の企業が複数誕生すると予想している。パターンは繰り返される。各ラウンドが値付けしているのは、「次に所有すべきレイヤーは、従来のチャットボットではなく、フィジカルAIだ」という投資仮説である。
編注:General Intuitionは、ゲームプレイ動画共有プラットフォームのMedalからスピンアウトしたAI企業。MedalのCEOピム・デウィッテが率いる。Medalに年間約20億本投稿されるゲームプレイ映像には、プレイヤーの操作(どのキーを押したか)が行動ラベルとして紐づいており、この「映像+行動」データからAIに空間的な推論を学ばせる。2024年末にはOpenAIがMedalを5億ドルで買収しようとしたと報じられた。



