幸福につながるお金の使い方とは何か。世界的ベストセラー著者のモーガン・ハウセルは、人々がついやりがちなお金の使い方について、負の感情を招くリスクがあると指摘する。
「お金を使うことは『アート』だ。唯一無二の正解はない」
こう語るのは、鋭い洞察力で知られる米ベンチャーキャピタリスト、モーガン・ハウセルだ。ベストセラー『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』の著者でもある(いずれも児島修訳、ダイヤモンド社)。
前作でお金の増やし方を説いた彼が、新刊『アート・オブ・スペンディングマネー』では、なぜお金の使い方に着目したのか。ハウセルに話を聞いた。
──執筆動機を教えてください。
モーガン・ハウセル(以下、ハウセル):実は私自身、お金の使い方を熟考したことなどなかった。だが、調べるうちに、お金の稼ぎ方や投資に関する本はごまんとある一方で、お金の使い方を論じる本は皆無に近いことがわかった。
「お金の使い方」は万人に当てはまるテーマであるにもかかわらず、なぜ関連書籍が希少なのか? 執筆を思いついたのは、その事実に関心をもったからだ。
本書の執筆は私個人の「内省の旅」だった。「お金の使い方をめぐる私の哲学とは?」「何が私を幸せにするのか」といった問いに向き合う旅だ。
また、自分への挑戦でもあった。前作と同じ哲学と枠組を次作にも応用できるか、と。助言を与えるのではなく、人が金銭的な決断を下す際、頭の中で何が起こるのかを深く考察するという執筆方法だ。
──お金を使うことは「アート」だと、定義づけていますね。
ハウセル:公式が存在しないため、科学というよりは芸術に近い。文化や世代が違えば、お金の使い方も変わる。「真に価値のあるお金の使い方とは」という問いに、唯一無二の正解などない。お金の使い方は個人の価値観次第だ。自分の最適解を見極めねばならない。
──「YOLO(人生は一度きり)」的生き方や、その対極にある「FIRE(経済的自立、早期退職)」に触れていますね。
ハウセル:私が心がけているのは、将来、自分の決断を振り返った際、なるべく後悔しないような生き方をすることだ。つまり、後悔する可能性を減らしたい。
今を楽しむために惜しみなくお金を使うYOLO的生き方や、過剰な節約や貯蓄が推奨されるFIREなど、金銭哲学が極端であればあるほど、後悔の可能性も高まる。YOLO的生き方は好況時にはいいが、不況で失業したり、大病を経験したりすると、人生観が様変わりする。最も安全な道は、FIREとYOLOの中間的生き方だ。
──将来の後悔を最小限に抑えるには、どのようにお金を使うべきですか。
ハウセル:将来、自分の決断を後悔しないようなお金の使い方は人それぞれであり、習得が難しいスキルだ。とはいえ、方法はある。実際に後悔している過去の決断を振り返り、そこから得た教訓を今後の決断に生かすことだ。
自分の「逆死亡記事」を書くのもいい。死後、自分が人々から、どう語られたいかを考える。大半の人々は「良き友人」「良き市民」といった言葉を望むだろう。給与額などはいっさい出てこない。
後悔を避けるには、自分が「何を望まないか」を見極めることも重要だ。そうした消去法は、自分が求めているものを見つけ出すための近道になる。



