その気づきは、阿部に次の時代を読み解くキーワードをもたらした。それがコンパウンドグロースだ。直訳すれば「複利的成長」だが、阿部は「単に利益が積み重なるという金融的な『複利』の意味にとどまりません」という。
「コンパウンドグロースというのは、既存のインフラが巨大化し、寡占化する過程で新しいテクノロジーが生まれ、それが既存インフラをリニューアルし、相互に影響しあって新たなプラットフォームへと進化していく社会インフラ・構造そのものです」
電気の例がわかりやすい。
「まず、エジソンが 19 世紀にフィラメントを用いた長時間使える白熱電球の開発に成功し、電気が量産可能になった。エジソン以前にも電気は存在しましたが、電気というエネルギーが新たにインフラとしてネットワーク化される最初の触媒がこの白熱電球でした。その後、電気というインフラを重層的に強化し、拡大させていく新しいサービス・商品が生まれていきます。今では電気が通っていない家はなくなるまでになりました。
その電気のつくり方を根本的に変える新しいインフラの普及が、今、エネルギー領域で始まっています。電気をつくるときに使っていた温暖化ガスの排出が許容されるレベルを超えてしまったがゆえに、それをゼロにしようという新しいインフラへのリニューアルです。同時並行として、情報伝達のインフラも変わり始めています。それらはすべて相互に関連して動いています。例えば、情報伝達のインフラを拡大すると、データセンター設立に巨大な電気が必要になって、求められる新しい情報活動に必要なエネルギーは膨大になるのです。
つまり、電気という既存インフラがリニューアルされ、同時並行で情報インフラが進化・リニューアルすることで、複利的に成長が拡大しつつあります」
自動車の例も同様だ。従来の馬車などのモビリティ・サービスを無意味なものとするほど自動車は巨大化した。その動力となるエネルギーとしての石油、ハイウェイなどの道路、新たなサービスとハードインフラが構築された。
そして、社会インフラがリニューアルするときにはあらゆるものが根底から変化するというメガトレンドが発生する。水素エンジンによる自動運転など、発明の連鎖によりエネルギー改革の促進とモビリティのインフラ大転換が同時に起きつつある。
「ここ数年、世界で大きなうねりのような変化の正体を言い当てられないもどかしさをずっと感じていました。けれど三菱重工の株価を見て、その答えが『コンパウンドグロース』だとわかった。あらゆる兆候が今後、エネルギーインフラの大転換が起こることを示唆しています」
時代の大きなうねりのなかで、日本はどのような役割を果たすべきか。そして投資という行為を通じて社会に対してどのような「コンパウンド」な価値をもたらすべきか──歴史的転換点における投資家・阿部修平の思索をまとめた記録が著書『コンパウンドグロース投資~世界を牽引する日本の新時代』(リンクタイズ刊)である。
本書における阿部の視座は、江戸時代にまでさかのぼる。例えば、幕末の時点では文明的には欧米列強に「周回遅れ」だった日本が、わずか数十年のうちにキャッチアップできたのは、江戸時代に築かれた世界最高水準の識字率と教育という土壌がすでにあったからだと喝破する。
地方の一企業だったファーストリテイリングやニトリを早くから見つけて支援してきた独立系投資顧問会社スパークスの阿部修平代表による、歴史的視点から投資の思考法をまとめた一冊。ピーター・リンチ、ジョージ・ソロス、ウォーレン・バフェットという伝説的な3人から直接学んだ著者ならではの投資眼から未来を探す。



