三菱重工の株価が急騰している。10倍銘柄(テンバガー)が象徴するのは、大きな時代の転換である。歴史の周期から読み解く、日本企業の世界的な役割とは。
三菱重工業(以下、三菱重工)の株価がここ3年で急騰しているのは、なぜか──。2026年3月には上場来最高値となる5195円を記録。日本の製造業を代表するレガシー企業である三菱重工の株価はこの40年ほどずっと400円前後で推移する横ばいの状態だった。それが、まるでベンチャー企業のように急騰し、“テンバガー(10倍株)”の代表格となっている。
地政学的リスクが顕在化し、日本政府の国防予算も過去最高水準となる9兆円を計上され、それへの期待として反映されたものと思われている。だが、阿部修平(スパークス・グループ代表)は「国策を背景に『赤字だった防衛のセグメントが黒字化した』など、株価が上がる個別の理由はわかります。しかし、約3年で10倍という急騰は、それだけでは説明がつかない。そこには、もっと大きな歴史的かつ構造的な変化が隠れているのではないかと考えました」と、異なる視点からこれを読み解く。阿部はジョージ・ソロスの右腕として日本株を担当したことやウォーレン・バフェットとの親交で知られる投資家だ。1980年代からの長きにわたり、歴史の周期で投資の世界を見てきた彼は、三菱重工の株価はひとつの象徴的な現象だという。
エネルギー改革とインフラ大転換

三菱重工で阿部が注目したのは、「防衛」と並ぶ収益の2本柱として同社の業績を牽引する「エナジー」事業、とりわけガスタービン事業である。
ガスタービンとは、燃料を燃やして発生した高温・高圧のガスで羽根車(=タービン)を回し、回転エネルギーを取り出す技術で、発電用はビル一棟ほどの巨大なサイズになる。1884年に岩崎弥太郎(三菱グループ創業者)が長崎で始めた造船事業がルーツである三菱重工にとって、巨大な「動力」を制御するコアな技術である。
一方で、技術的難易度が極めて高く、開発コストもかかるため、再生可能エネルギーシフトのなかで、欧米勢が投資を縮小。巨大コングロマリットであるGEとシーメンスから分社化されたGEベルノバ、シーメンス・エナジー、そして三菱重工の3強にガスタービンの技術は集約されている。
「ガスタービンというのは、極めて寡占的なインフラ技術です。それが近年の“脱炭素”という世界的トレンドのなかで、石炭火力発電よりも環境負荷の少ないタービンを使ったガス火力発電が脚光を浴びた。今では世界的に需要が増しています」
三菱重工の場合、ガスタービンの受注額でみると、2021年に約6000億円だったのが、24年には1.47兆円と2倍以上になっている。
その背景には、AIの爆発的普及で、データセンターの電力需要を押し上げていることがある。
「要するに、世界は従来のエネルギーインフラの在り方を根本から変えざるをえない『インフラの大転換期』に直面しているということです。それを市場が察知したからこそ、カギを握る技術をもつ三菱重工の株価が急騰したのではないかと気づいたんです」
KEYWORD 01|テンバガー
伝説的なファンドマネジャー、ピーター・リンチの造語で、株価が10倍以上に急上昇した銘柄。中小型成長株で見受けられる。半導体検査装置のレーザーテック、データセンター需要の追い風を受けたさくらインターネット、宇宙関連のQPSホールディングスが有名。三菱重工のように大企業が短期間で10倍になるのは珍しい。



