IT業界の巨人であるマイクロソフト(ティッカーシンボル:MSFT)は、クラウドとAI事業を原動力に、かつてない好業績を上げている。ただし、同社株を買うかどうかは、将来の成長に向けた巨額の設備投資が、リターンとして結実と信じるかどうかにかかっている。
マイクロソフトは、AIの未来に賭ける銘柄として存在感を高めている。もっとも、今年に入り同社株は苦戦しており、年初来23.6%下落したうえ、過去52週間の高値からは約31%低い水準で取引されている。こうした株価の下落は、同社の事業実績とは対照的だ。マイクロソフトは直近の決算で、底堅いクラウド事業を支えに「記録的な第3四半期」を達成したと発表している。
投資家にとって今回の株価下落は、会社を大きく変える成長シナリオに投資する好機であると同時に、そうした成長を実現するために必要な巨額の費用への警鐘でもある。
何に対して対価を支払っているのか
マイクロソフトの企業価値評価(バリュエーション)を見ると、相反する二つのシグナルが浮かび上がり、こうした緊張関係をよく映し出している。
PERで見ると、同社株は20.9倍で取引されており、S&P500平均の24.4倍を下回っている。しかしPSRで見ると様相は一変し、8.2倍と市場平均の3.3倍の2倍以上に達している。この評価のねじれは矛盾ではなく、市場が数字で下した判断そのものだ。投資家はマイクロソフトの売上高1ドルに対して高いプレミアムを支払っている。同社が巨額のAI投資によって、将来的に、より急速かつ大規模な売上成長を遂げるというシナリオに投資しているのだ。その一方で、現在の利益には割安な評価が付いている。これは、AIインフラの構築が今まさに利益率を圧迫していることの表れだ。
その対価として何が得られるのか
その対価として投資家が得るのは、最重要事業であるMicrosoft Cloudに的を絞り、無駄なく経営されている企業の姿だ。同事業の売上高は直近四半期で540億ドル(約8兆1000億円)を超え、前年同期比29%増加した。このクラウド事業をけん引しているのはAIだ。経営陣によれば、AI関連の年換算売上高は370億ドル(約5兆5600億円)を超え、前年比123%増加したという。
同社の戦略は明快だ。世界をリードするAIインフラを構築すると同時に、コーディングやセキュリティ、生産性向上を支援するCopilotのような「高付加価値のエージェント型システム」(人間が詳しく指示しなくても自律的にタスクをこなすAIシステム)を開発する。実際、Copilotの普及は着実に進んでおり、Microsoft 365 Copilotのアクティブな契約数は2000万件を超えている。同社はこの野心的な事業拡大を賄うのに十分な体力を備えている。営業キャッシュフロー(本業で得た現金収入)は約1701億ドル(約25兆5000億円)に達する。一方、負債は時価総額のわずか2.2%にとどまり、S&P500構成企業の平均20.8%と比べてごく小さい割合だ。



