AIが爆速で普及するにつれ、それをどのように使用し、何に使用すべきでないのかという問題が軍事と民生とを問わず争点になっている。しかしそもそも、その使い方を決めるのは誰なのだろうか。Claudeをめぐる米国の官民対立が提起したのはこのような問題であった。
アンソロピックは、自社のAIが大規模な国内監視や完全自律型兵器に用いられることを拒否し続けている。これに対して、国防総省は一貫して軍事利用への制約に反対の姿勢を示してきた。そうしたなか、2026年1月のベネズエラ攻撃、2026年2月末に始まったイラン攻撃では米軍がClaudeを用いた作戦を実施したことも報道されている。それが、アンソロピックが懸念するような「完全自律型」のAI利用を文字通り意味するものだったわけではなさそうだが、少なくとも、同社が求める利用方針への制約を国防総省が受け入れた結果でもなかった。
新たな技術の導入に際して、米国では過去にも似たような懸念が生じたことがある。例えば、AIの軍事利用にはテック企業からの反対がなかったわけではない。2018年にはGoogleが社員の反対を理由に今日の軍事利用につながるプロジェクト・メイブンからの離脱を決定した。このことは、当初から米国のAIエコシステム内部の見解が統一的なものではなかったことを示している。
あるいはもう少しさかのぼってみると、米国内の国民監視をめぐる問題は、ドローン技術の普及過程でも問題視されていた。ドローンの利用可能性が現実味を増したことは認識技術の高度化と相まって、政府活動への利用等を通じて国民のプライバシーを侵害するのではないかとの懸念が高まったのである。
もっともこうした問題に対して、その時々の議論や対応は極端なものではなかった。Googleはメイブンから離脱したからといってその後の国防総省プロジェクトから排除されたわけではなかったし、ドローンの利用に関しては合衆国憲法をはじめとする現行制度との整合性という観点から整理された。
第2次トランプ政権がアンソロピックに対してとった措置は、それとは対照的なものであった。2026年2月末にアンソロピックと国防総省の交渉が決裂すると、政権は同社を政府調達から排除しただけでなく、サプライチェーン上のリスクとして指定し、圧力をかけたのである。よく知られているように、サプライチェーンリスク指定されるのは外国、特に懸念国の企業であるのが通例であり、国内の重要企業を対象とした措置は極めて異例であった。さらに2026年5月1日、国防総省はAI企業8社と機密AIネットワーク協定を締結し、各社のAIを合法的に軍事利用するための枠組みを構築しようとした。そこにアンソロピックは含まれていない。



