「この事業は、スケールするのか?」
スタートアップのピッチでも、新規事業の会議でも、よく聞かれる問いである。売上は伸びるのか。ユーザー数は増えるのか。導入先は広がるのか。成長可能性は、事業の未来を考えるうえで欠かせない。
社会課題に取り組む活動でも、同じ問いが投げかけられてきた。よい取り組みを、もっと多くの人に届けたい。ある地域で生まれた成果を、他の地域にも広げたい。教育格差、孤独、貧困、気候変動、地域の衰退。課題は大きく、時間は限られている。
けれども、拡大すれば、本当に社会は変わるのだろうか。利用者が増えること、拠点が広がること、予算が大きくなること。それらは大切である。しかし、それは社会課題そのものが解決に近づいていることを意味するのだろうか。あるいは私たちは、「大きくなること」を、社会的価値の代理指標にしてしまってはいないだろうか。
この問いは、NPOや財団だけのものではない。サステナビリティ、インパクト投資、CSV、新規事業、地域共創。企業もまた、社会課題と無関係ではいられない時代にある。だからこそ、社会イノベーションの世界で議論されてきた「スケール」の知見は、ビジネスパーソンにも重要な問いを投げかけている。
「よい取り組み」をどう広げるか
スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー(SSIR)は、創刊以来、社会変革をどう広げるかという問いを繰り返し扱ってきた。
初期の議論で中心にあったのは、よい組織やよいプログラムを、どう他の地域や対象者へ広げていくかという問題だった。どれほど優れた実践であっても、それが一部の地域や少数の人々にしか届かなければ、社会課題全体への影響は限られる。
ただし、社会課題の解決は、フランチャイズ店舗を増やすようには進まない。ある地域でうまくいったプログラムを、別の地域にそのまま移せばよいわけではない。そこには、文化、制度、資金、人材、信頼関係、地域の歴史がある。何を変えてはいけないのか。何は文脈に応じて変えてよいのか。どこまで中央が管理すべきで、どこから地域に委ねるべきなのか。
SSIRのスケール論は、早くからこの複雑さに向き合ってきた。単に「同じモデルを複製する」のではなく、広げるべきものは組織モデルなのか、プログラムなのか、原則や思想なのかを見極める必要がある、という視点である。
これは企業にも通じる。ある事業部で成功した施策を全社展開する。ある地域で成果が出たサービスを全国に広げる。ある国で成功したモデルを海外展開する。こうしたときにも、本当に移転可能なのは何かを見極めなければ、形式だけが広がり、成果は薄まっていく。



