それでも、スケールは重要である
近年のSSIRでは、スケールをめぐって多様な議論が交わされている。すべてをスケールすべきではないという問いかけがある一方で、その重要性を改めて確認する議論もある。
SSIR-Jで公開された「スケールは、やはり重要である」は、まさに後者の立場から書かれた記事である。問題は大きく、時間は限られ、資源も限られている。そうである以上、より多くの人に、より速く、より大きなインパクトを届ける努力を手放すことはできない。
ただし、ここでいうスケールは、単なる組織の拡大ではない。同記事は、スケールを「指数関数的なインパクト」として捉える。職員数や予算や拠点数を直線的に増やすことではなく、課題の大きさに見合うかたちで、変化が広がる仕組みをつくることだ。
スケール批判が小規模礼賛になってしまえば、社会課題の大きさに応答できない。逆に、スケールを組織拡大と同一視してしまえば、現場に過剰な成長圧力をかけ、かえって本来のインパクトから遠ざかることもある。問うべきは、スケールするか、しないかではない。何を、どのように、誰とともにスケールするのかである。
企業にとっても、この議論は他人事ではない。売上が伸びる。ユーザー数が増える。導入先が広がる。それは重要な成果である。しかし、社会課題に関わる事業であれば、それだけでは十分ではない。その成長によって、どのような構造が変わったのか。誰の選択肢が増えたのか。どのような不利益が減ったのか。そこまで問う必要がある。
また、社会課題を本当に変えようとするなら、ときには自社のコントロールを手放す必要もある。知識を共有する。競合と協調する。政策や業界標準に働きかける。地域の主体に委ねる。自社の成果として囲い込むのではなく、変化そのものが広がることを優先する。
もちろん、これは簡単ではない。企業には当然、競争や収益の論理もある。しかし、社会課題の多くは、一社の勝利だけでは解けない。
一方で、広げることだけでは見えにくくなる価値もある。地域に根差した信頼。時間をかけて育つ対話。数値化しにくい安心感。当事者が自分の声を取り戻していくプロセス。こうしたものは、簡単には標準化できない。すぐには横展開できない。KPIにも落とし込みにくい。しかし、社会を支えているのは、しばしばこうした見えにくい価値である。
拡大すれば、本当に社会は変わるのか。
答えは、単純ではない。時には、拡大しなければ届かない命や暮らしがある。時には、拡大することで失われる関係性や知恵もある。時には、自分たちが大きくなるよりも、他者が動ける条件を整える方が、はるかに大きな変化を生む。
スケールとは、組織を大きくすることだけではない。何を広げ、何を手放し、何を地域や他者に委ねるのか。そして、「大きくなること」を、社会的価値の代理指標にしていないか。
SSIRが問い続けてきたスケールの議論は、社会課題に向き合う企業や組織に、「何を大きくするべきなのか」という問いを投げかけている。


