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経済・社会

2026.06.30 13:15

拡大すれば社会は変わるのか—— SSIRが問い直してきた「スケール」の意味

hiro- stock.adobe.com

それでも、スケールは重要である

近年のSSIRでは、スケールをめぐって多様な議論が交わされている。すべてをスケールすべきではないという問いかけがある一方で、その重要性を改めて確認する議論もある。

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SSIR-Jで公開された「スケールは、やはり重要である」は、まさに後者の立場から書かれた記事である。問題は大きく、時間は限られ、資源も限られている。そうである以上、より多くの人に、より速く、より大きなインパクトを届ける努力を手放すことはできない。

ただし、ここでいうスケールは、単なる組織の拡大ではない。同記事は、スケールを「指数関数的なインパクト」として捉える。職員数や予算や拠点数を直線的に増やすことではなく、課題の大きさに見合うかたちで、変化が広がる仕組みをつくることだ。

スケール批判が小規模礼賛になってしまえば、社会課題の大きさに応答できない。逆に、スケールを組織拡大と同一視してしまえば、現場に過剰な成長圧力をかけ、かえって本来のインパクトから遠ざかることもある。問うべきは、スケールするか、しないかではない。何を、どのように、誰とともにスケールするのかである。

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企業にとっても、この議論は他人事ではない。売上が伸びる。ユーザー数が増える。導入先が広がる。それは重要な成果である。しかし、社会課題に関わる事業であれば、それだけでは十分ではない。その成長によって、どのような構造が変わったのか。誰の選択肢が増えたのか。どのような不利益が減ったのか。そこまで問う必要がある。

また、社会課題を本当に変えようとするなら、ときには自社のコントロールを手放す必要もある。知識を共有する。競合と協調する。政策や業界標準に働きかける。地域の主体に委ねる。自社の成果として囲い込むのではなく、変化そのものが広がることを優先する。

もちろん、これは簡単ではない。企業には当然、競争や収益の論理もある。しかし、社会課題の多くは、一社の勝利だけでは解けない。

一方で、広げることだけでは見えにくくなる価値もある。地域に根差した信頼。時間をかけて育つ対話。数値化しにくい安心感。当事者が自分の声を取り戻していくプロセス。こうしたものは、簡単には標準化できない。すぐには横展開できない。KPIにも落とし込みにくい。しかし、社会を支えているのは、しばしばこうした見えにくい価値である。

拡大すれば、本当に社会は変わるのか。

答えは、単純ではない。時には、拡大しなければ届かない命や暮らしがある。時には、拡大することで失われる関係性や知恵もある。時には、自分たちが大きくなるよりも、他者が動ける条件を整える方が、はるかに大きな変化を生む。

スケールとは、組織を大きくすることだけではない。何を広げ、何を手放し、何を地域や他者に委ねるのか。そして、「大きくなること」を、社会的価値の代理指標にしていないか。

SSIRが問い続けてきたスケールの議論は、社会課題に向き合う企業や組織に、「何を大きくするべきなのか」という問いを投げかけている。

「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー」は、非営利団体、財団、企業、政府、関心を持つ市民など、世界中の社会変革リーダーによって、社会変革リーダーのために執筆されてきたグローバルマガジンです。2003年にスタンフォード大学内で創刊されて以来、グローバルおよびローカルな社会課題に取り組む多様なセクターの人たちが、これまでになかった新たなソリューションを見つけ、前進することを後押しする研究と実践に基づいた最高の知見を提供しています。日本版は大学院大学至善館インパクトエコノミーセンターが運営しています。
https://ssir-j.org/

文=井川 定一(スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー・ジャパン副編集長)

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