組織を大きくするより、インパクトを大きくする
その後、SSIRの議論はさらに進んでいく。重要なのは、組織を大きくすることではなく、インパクトを大きくすることではないか。2010年にSSIRで示された問いは象徴的だった。どうすれば、組織を2倍にするだけで、成果を100倍にできるのか。これは、ソーシャルセクターにとって大きな発想の転換である。
従来のスケールは、しばしば組織の成長と結びついていた。職員を増やす。拠点を増やす。予算を増やす。支部をつくる。もちろん、それが必要な場合もある。しかし、組織の成長には限界がある。人材も資金もマネジメント能力も、無限ではない。
それならば、別の主体が実施できるようにする。既存のネットワークやプラットフォームに乗せる。政策や制度を変える。市場の仕組みを変える。人々の行動や社会規範を変える。つまり、社会変革の担い手を、自分たちの組織の内側だけに閉じ込めないということである。
この発想は、企業が社会課題に取り組むときにも無関係ではない。自社でどこまで事業化できるかは重要な問いである。しかし、社会課題の解決に必要なのは、自社の成長だけではないかもしれない。業界標準を変えること、政策形成に関わること、競合や異なるセクターを含む協働の土壌を育てること。自社が大きくなることと、社会に変化が広がることは、重なる部分もあるが、同じではない。
「課題全体」に見合う規模で考える
2010年代に入ると、SSIRでは「Transformative Scale(変革的スケール)」という議論が広がっていく。ここで問われたのは、単に「よいプログラムを広げる」ことではない。目の前の社会課題の規模に対して、自分たちの取り組みはどれほど届いているのか、という問いである。
たとえば、ある教育プログラムが素晴らしい成果を上げていたとしても、対象となる若者が数百万人いるなかで、毎年数千人にしか届いていないとしたらどうだろうか。もちろん、その数千人の人生にとっては大きな意味がある。しかし、課題全体を見れば、まだ社会全体の標準にはなっていない。
では、その実践をどう社会の当たり前にしていくのか。
ここで必要になるのは、自分たちのプログラムを少しずつ拡大するだけではない。既存の制度に組み込む。政府の予算や政策を動かす。市場の力を活用する。専門人材を育てる。社会規範を変える。複数の組織が連携し、課題を生み出しているシステムそのものに働きかける。
このあたりから、スケールの議論は、組織戦略を超えて、システムチェンジの議論へと近づいていく。社会課題は、ひとつの組織が単独で解けるほど単純ではない。貧困も、孤独も、気候変動も、教育格差も、複数の制度、文化、経済構造、人間関係が絡み合って生まれている。だとすれば、スケールとは、単に「自分たちの活動を広げること」ではなく、「変化が起き続ける条件を広げること」なのではないか。
脱炭素、人的資本、地域共創、サプライチェーンの人権。どれも、自社の努力だけで完結するテーマではない。社会課題に向き合うとは、自分たちだけで完結しない変化を扱うことでもある。


