人間の脳は毎晩、「制御された消える魔法」のような離れ業を実行している。脳は、意識レベルを下げ、現実の世界を遠ざけ、複数の状態が切り替わる睡眠サイクルをめぐらせる(それぞれの睡眠状態は、明確な神経学的な特徴を持っている)。
このように脳が働いている睡眠時間の大半で、体は待機状態にある。閉じられたまぶたの下で、眼球がきょろきょろ動く時もあるが、基本的に筋肉は動きを止める。さらに声も、ほとんどの時間は発されることはない。ただし例外も多少はある。
寝言(Sleep talking)は、学術的にはsomniloquy(睡眠時発話)と呼ばれる。これは、ラテン語で睡眠を意味する「somnus」と、話すことを意味する「loqui」に由来する言葉だ。寝言は、人間の睡眠中に認められる、最も一般的な変容行動(altered behaviors:いつもとは違う行動)の一つだ。
成人1000人を対象とした大規模な疫学的調査では、これまでの人生で寝言を言った体験がある人は全体の66%に上り、直近の3カ月に限っても、約17%が寝言を言ったと回答している。子どもの場合は、こうした現象を示す者の割合はさらに高くなる。幼い子どもでは、約半分が寝言を言うことが報告されている。その割合は、年齢が高くなるにつれて低くなるのが通例だ。
寝言には2つの種類がある
寝言を興味深いものにしているのは(そして、睡眠研究者にとって非常に有用なものにしているのは)、それぞれの発話が一度きりであり、同じようには起こらないことだ。
寝言の神経科学的特徴は、この現象が起きる時に、その人がどういう睡眠段階にいるかで決まる。ノンレム睡眠の時、なかでも、比較的眠りの深い「ステージ2」や「ステージ3」では、脳波は緩やかなリズムを刻む。しかし、これは何も起きないフラットな時間ではない。脳の活動が沈静化する「ダウン状態」と、活発になる「アップ状態」という、2つの状態を行き来している。
こうしたなかで、時折、脳の活動が盛んになり、さらにその活動が運動性言語野に集中する場合があり、そういう時には、完全に覚醒しないまま、ほんの短時間、喉頭や舌、唇が動くことがある。この場合、本人はまだ寝ていて、意識はない。これは、脳が突発的な動きによる発話を許してしまったという状態だ。研究者はこうした状態を、運動野からの漏れ(motor cortex leakage)と呼ぶ。この結果生じる寝言は、短く不明瞭で、単一の単語やうめき声、不完全なフレーズなどの形をとることが多い。



