一方、レム睡眠の場合は、状況はまったく異なる。こちらのフェーズでは、夢を見ている脳は非常に活発に活動しており、脳のスキャンでは、起きている状態とほとんど区別がつかない。こうした状態にある人が、脳内で見ている夢を実際の行動に移すのを防ぐために、脳幹にある専用の回路が、筋活動抑制の状態を作り出す。これは、化学物質によって引き起こされる、全身が弛緩した状態で、GABA(ギャバ)やグリシンの受容体によって仲介されている。
『Journal of Neuroscience』に掲載された研究によって、脳が覚醒しながら体は動かない状態を維持するには、延髄腹内側部にある神経細胞(ニューロン)が決定的な役割を果たしていることが裏付けられた。この状態を維持できなくなった場合、非常に顕著な変化が起きる。動物(や人間)は動き回ったり、手や足を動かしたり、周囲の環境に対して直接話しかけたりする。
レム睡眠時の発話の場合、周囲が耳にするのは、夢の中で発した声が現実の世界に漏れ出てきたものだ。筋活動を抑制する効果は、ほぼ全身に及んでいるが、発話に関わる部位だけがその影響を受けないのだ。
ただし、どちらのタイプでも、寝言が生じるメカニズムは、行動の抑制に失敗したという点で、本質的には同じと言える。つまり、眠っている時の脳が言葉を発するのは、自らを抑えられなくなった時ということだ。
最も多い寝言は「だめ」
パリにあるピティエ・サルペトリエール病院に所属する神経学者イザベル・アルヌルフをはじめとする研究者チームは2017年、学術誌『Sleep』に論文を発表した。これは、今に至るまで、寝言の内容に関する最も厳密な言語学的分析として知られている。
研究チームは、成人の被験者232人を対象に、複数日にわたって、睡眠ポリグラフ検査を実施した。これによって、のべ883件の睡眠時発話エピソードと、聞き取り可能な単語3349件を収集した。
この調査によって、眠っているあいだに被験者が発した単語で最も一般的だったのは、「だめ(ノー)」だったことが判明した。「だめ」を含む否定表現は、すべてのフレーズの21%以上を占め、レム睡眠時よりもノンレム睡眠時に多くなる傾向があった。
一方、疑問を投げかけるフレーズは、全エピソードのうち26%に登場した。従属節も、文法的に完全で、正しい構成を持つものが、全体の13%近くに現われていた。また、罵倒する言葉も、すべてのフレーズの約10%で使われていた。これは、同じ人物の覚醒時と比べてかなり高い割合だった。
さらに目を引くのは、寝言の内容だけでなく、その形態だ。寝ている時の発話でも、起きている時の言葉遣いの構造が維持されていたのだ。例えば、寝言でも想像上の会話の相手がいて、代わる代わるに話すという慣習を守るかのように、「返事をする間」が置かれていた。また、ブローカ野やウェルニッケ野と呼ばれる、正確な発話や言語理解に関わる脳の領域は、寝ているあいだも連携し、活発に働いていることが判明した。
こうした傾向について、アルヌルフ自身もこう指摘している。「夜に発される言葉はネガティブで、緊張感があり、より品がない。さらに、自分自身に対する独り言ではなく、他人に向けられている」
つまり、眠っている脳は、適当なことをつぶやいているわけではなく、誰かと言い争っていることが多いことが、この研究で判明したわけだ。


