アート

2023.11.13 13:30

アートとビジネスの近接、「文化資本経営」がいよいよ動き出す

虎ノ門に誕生した情報発信拠点「TOKYO NODE」のラボ機能。NODEとは「結節点」で、異なる領域をつなぎ、次々と新しいものを生み出し、発信することをめざす。

虎ノ門に誕生した情報発信拠点「TOKYO NODE」のラボ機能。NODEとは「結節点」で、異なる領域をつなぎ、次々と新しいものを生み出し、発信することをめざす。

昨今のアートとビジネスの接近は、なぜ生まれ、どこへ向かうのか。この1年で行政も文化と社会・経済を結ぶべく動きを加速し、都内では大企業が続々とアートスペースを開設している。起業家のプロトタイプや活動を展示、紹介したForbes JAPANによる展覧会も然り。アート×ビジネスの「現在地」を俯瞰してみたい。


2022年1月の衆議院本会議にて、岸田文雄首相が「文化アート振興を推進していく」と発言したことが一部メディアで注目を集めました。それまで国会で総理大臣がアートに直接言及することはほとんどなく、国家という単位におけるアートの存在感は大きくはなかったからです。

それから1年半ほどたった2023年7月、経済産業省が「アート経済社会について考える研究会報告書」を取りまとめ発表します。本報告書は、経済社会との結びつきという点に根差し、アートを「企業・産業」「地域・公共」「流通・消費」「テクノロジー」の4つの需要の類型から考察しているものです。経産省のねらいは、本研究を「文化アートと経済社会の循環エコシステムの構築」に向けた施策検討、ひいては経済発展・活性化に役立てることにあります。
経済産業省初のアートに関する報告書。大林組会長の大林剛郎氏を座長に35人の有識者で構成された研究会による議論の取りまとめであり、約300ページに及ぶ。アーティストや作品云々ではなく、企業や地域がアートに取り組むうえでのポイントや課題と対策が中心に据えられている。オンラインで誰でもダウンロード可能。

約300ページに及ぶ、経済産業省初のアートに関する報告書。オンラインで誰でもダウンロード可能。

道具主義的文化政策への懸念は依然として存在するものの、文化芸術と経済は決して不可侵領域ではありません。観光や地域活性化、産業振興、R&Dや人材開発などさまざまな観点から光を当てることで、芸術の潜在的な価値がより引き出されていくのです。近年の各分野からのアートに対する関心の高まりは、こうして国からも後押しされる格好となりました。

開かれる美術館の重い扉

そうした動きを背景に、今春、文化庁を母体とした2010年代半ばからの議論と検討を受け、7つの国立美術館を所管する独立行政法人国立美術館のもと、国のアート振興機関である国立アートリサーチセンター(NCAR、エヌカー)が発足しました。

センター長には森美術館の館長を務める片岡真実が就任し、日本のアート振興のために、美術館資源の活用や発信を軸に、広く社会におけるアートの芸術的・社会的な価値の向上に取り組んでいくといいます。
「アートをつなげる、深める、拡げる」をミッションに、日本のアート振興に取り組むNCARのセンター長は片岡真実。民間運営の美術館でキュレーションやマネージメントの経験を蓄積しながら、国内外のビエンナーレの芸術監督、CIMAM(国際美術館会議)会長などを歴任して培われたネットワークの活用も期待されている。

「アートをつなげる、深める、拡げる」をミッションに、日本のアート振興に取り組むNCARの片岡真実センター長。国内外のビエンナーレの芸術監督、CIMAM(国際美術館会議)会長などを歴任して培われたネットワークの活用も期待されている。

日本は1980〜90年代の美術館建設ラッシュの助けもあって全国に4〜500館を擁する美術館大国ですが、限られた人材・資金ゆえに各館そのものの開発や地域社会・経済への接続がまだまだ不十分であることが指摘されてきました。しかし美術館には豊富な美術品と専門家人材、立派な「箱もの」が備わっています。

直轄の国立美術館を中心に全国津々浦々の美術館とのネットワークを強化し、アート振興につなげようとするNCARには、日本が培ってきた膨大な美術資源と社会・経済とを結ぶ要となることが期待されています。
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文=深井厚志

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