今年4月にNPO法人になった「愛知こどもホスピスプロジェクト」(事務局・名古屋市名東区)では、医療関係者や患者家族らのメンバーが、5年後の施設設立を目指して奮闘している。その情熱の源になっているものとは何か、2回に分けて紹介したい。
初回は、一昨年5月に9歳でお空へ旅立った愛知県江南市の安藤佐知ちゃんと、こどもホスピス運動に尽力する母・晃子さん(46)ら一家の物語。
クリスマス前、9歳のお誕生日会で
2020年のクリスマス前。急性リンパ性白血病で名古屋大学附属病院(名古屋市昭和区)に入院中だった佐知ちゃんは、外泊許可を得て、同市のヒルトン名古屋に家族と来ていた。難病の子の願いをかなえる活動をする公益財団法人メイク・ア・ウイッシュオブジャパンが、佐知ちゃんのリクエストを受け、同ホテルの全面協力を得て実現した9歳の「お誕生会」だった。
眺めのいいコネクトルームで、お祝いの食事を楽しんだ。がんの痛みが強く、もうほとんど食べられなかったけれど、シェフ特製のかわいいお子様ランチに目を輝かせ、少しだけ口に運んだ。
本番はその夜。水色のドレスに着替えた佐知ちゃんを車いすに乗せ、宴会場のドアを開けると、バージンロードのような花道が、奥に向かって伸びていた。両側には、誕生会の企画に携わったホテルスタッフ約40人が並び、一斉に拍手を始める。花道の先のテーブルには、9本のろうそくを立てたホールケーキ。
「佐知ちゃんがわずかな時間でも幸せな気持ちになれるように」と、前夜から会場を飾りつけ、準備した。メイク・ア・ウイッシュの担当者も知らされていないサプライズの演出だった。
当時、小学校6年生だった兄・正輝さんは「幸せな時間でした」と振り返る。
「スタッフの皆さんの笑顔をまぶしく感じました。病室にいるときの佐知も、病棟の小さい子たちの世話をしているとき、同じように笑っていたことに気づきました」
自分はほとんど食べられないのに、ウーバーイーツでピザを注文して、配ったりするのが好きだった妹。共通するのは、自分がだれかの役に立てるという喜び。後に、こどもホスピス設立に取り組む人たちと出会って、正輝さんは「同じ笑顔だ」と思った。