今回、ランキングに先立ってこのアイコン賞に選出されたのが、東京の三つ星フレンチ「レフェルヴェソンス」の生江史伸シェフである。
「人を敬う」心づもり
生江氏は、自然、農家、漁師、猟師との繋がりを優先した倫理的な料理法で、日本独自のテロワールを表現することで世界的に評価されている。また、国連本部で開催された「世界海洋デー」イベントで、海の健康を再生する海藻の重要性のスピーチを行ったり、WWFジャパンと協力して日本における違法、無報告、無規制漁業の削減に取り組んだり、レストランの枠を超えた環境活動にも力を注いでいる。「僕の活動について、サステナブルやエシカルなどと言われることが多いんですが、それを念頭においているわけではありません。もっとシンプルに『人を敬う』ことや、環境問題であれば『置かれている状況を敬う』『ダメージがあるものをケアしていく』などといった心づもりで行動しているだけなんです」
このような心づもりは、無償の愛を指し示すコンパッション(慈悲)とも言われ、人間の幸福にとって最も大切な心理だと言われている。その心を養うために、自己肯定感や利他の精神を高めたり、瞑想をするなど、さまざまなアプローチが考えられるが、生江氏は、その息吹は日常にあると説く。
「例えば僕たち飲食店は、見ず知らずの人を笑顔でお迎えし、ご飯を提供します。さらに、食事を通して会話を楽しみ、お互いのパーソナリティを認め合って信頼関係を築き、人間関係を良好にしていきます。この営みにおいて敵を作ることはありません。幸せや平和に繋がるという前提に立っています。また、僕たちが生産者と繋がることで、生産者のまわりの自然環境、つまり地球が守られることもあるでしょう」
確かにSDGsの項目を一つ一つ見ていっても、「人を敬う」ことで解決できる課題が多いことに気づく。サステナビリティやSDGsなどが世の中に浸透するにつれて、何か特別なことをやらなければと思いがちだが、実は難しく考える必要はなく、日常の中のちょっとした優しさで貢献できるのだ。