連携先には、子どもシェルターや婦人保護施設などもあり、「自分たちもいつか相談者のための居場所を持ちたい」と思いを強くしていった。
(前編:漂流する妊婦たち──妊娠葛藤相談から「アフターピル市販化」賛否に思うこと)
コロナ禍の2020年6月、豊島区内の一軒家で、project HOMEをスタートした。家の名称はフィンランド語でしずくを意味する「ぴさら」とした。居場所なくいろいろな場所を転々とする、まさに“漂流”する妊婦に、「安心」と「休息」を提供する。ここで少し身体と心を落ち着けて、次の一手を、専門性を持ったスタッフと一緒に考えることができる。本人の状況やニーズに合わせ、ステイ(宿泊)やデイ(日帰り)での利用も可能だ。
なぜこのような居場所を作ったのだろうか。ピッコラーレ代表の中島かおりさんと、事務局長の小野晴香さん、そして協働団体のNPO法人PIECES(ピーシーズ)理事の斎典道さんに聞いた。
ニーズに合わせて柔軟に、できることをやる
ぴさらは、出産までの期間、期限を定めず宿泊利用できる。
「利用者さんとは、一緒にご飯を食べて、散歩やヨガをしたり、たわいもないことをお喋りしたり、トランプしたり。ある妊婦さんはこの場所でしっかり食事を摂るようになり、尿糖の値が大幅に改善してみんなで喜びました。その時の本人のニーズに合わせてこの場所を作っています。出産後に赤ちゃんと一緒に来てご飯を食べたり、沐浴をしていく赤ちゃんもいます。中絶後の女性が病院から直接ここに来て、少し身体を休めることもあります」と中島さんは語る。
ぴさら開設前は、居場所のない妊婦たちから直接相談があって、次の行き先が見つかるまでの間利用してもらう、ハブ的な役割を想定していた。しかし実際には違った。
「いまのところ、ステイの利用は全例、他団体や行政など外部の支援者を経由して、私たちとつながった妊婦さんたちです。児相や子ども家庭支援センターなどがサポートをしていて、すでに要保護児童対策地域協議会(要対協)が開かれていたケースもあります」
要対協とは、児童福祉法の中に規定された、虐待などで保護を要する児童への適切な支援を図るために地方自治体に設置運営される組織。つまり要対協につながっているということは、地域の支援の手が少なからず入っていることを意味する。