「ある企業からイベントでの講演を依頼されたのですが、ほかの登壇者が全員男性だとわかったので、丁重にお断りしました。こういうことは、これまで何度かありましたね」
平然とそう語るのは、Boxの共同創業者兼CEOで会長のアーロン・レヴィだ。
日本的感覚からするとピンとこないかもしれないが、別にレヴィは男性が嫌いなわけではない。男女平等の意識改革が急速に進む近年のアメリカ社会では、「登壇者全員が男性」というイベントは敬遠されつつある。だがCEOとして、会社をPRする絶好の機会をふいにしてまで、男女平等の信念を貫くのは珍しい。
「公の場でリーダー自らがダイバーシティについての考えを行動で示すことはとても大切です」と、7月に顧客向けカンファレンスで来日したレヴィは「Forbes JAPAN」のインタビューに対し、そう語った。
巷(ちまた)で「ダイバーシティ(多様性)」や「インクルージョン(包摂)」といった言葉を耳にする機会が増えている。そんな中、2005年創業のBoxは、ダイバーシティの尊重を社是のひとつに掲げ、早くからさまざまな施策に取り組んできた。その先進的な事例に学ぼうと、他社からの視察も相次いでいるという。
「ダイバーシティはシリコンバレーでとても重要なトピック。大企業も中小企業も、他社がどんな取り組みをしているのか、ベストプラクティスは何かを学ぼうとしています。我々が答えをもっているわけではありませんが、多くの企業が我々の取り組みに関心をもっています」と、レヴィは胸を張る。
平等な賃金体系を導入
Boxはファイルの共有やコラボレーションといった法人向けクラウドコンテンツ管理サービスの導入支援を通じて、効率的で柔軟な「働き方改革」を推進しており、近年業績を急拡大している。全世界で9万5000社超の顧客を抱え、フォーチュン500(全米を代表する大手500社)のうち、実に70%が同社のサービスを利用しているという(19年7月時点)。
レヴィ曰く、その好調な業績を支えている要因のひとつは、ダイバーシティをはじめとする人材戦略にある。
「コラボレーション(協働)、ダイナミズム(大胆さ)、アジリティ(敏捷性)といった企業カルチャーが、かつてないほど重視されています。同質性の高いチームはみんな同じように考えるからダイナミズムがない。どうすれば新しい視点で問題解決できるか──。経営者の仕事は、それができる職場環境をつくることであり、そのカギがダイバーシティなのです」
ではBoxはいかにして、ダイバーシティを推進しているのか。