人気を集めるその仕事は、レストランのサービススタッフ。そして食事客は、全員路上生活者だ。そのレストラン「レフェットリオ(Refettorio) 」の噂は以前から聞いており、一体どんなものなのだろうと興味を持っていた。
実際に確かめるチャンスが訪れたのは、今年5月のこと。筆者は新しいレストランのアワード「The World Restaurant Awards」の審査員の一人としてパリにおり、同じく審査員だったレフェットリオの創設者、マッシモ・ボットゥーラと同席した。話を聞いてみると「興味があるならパリの店に来てみればいい。今日の夕方、6時に、マドレーヌ寺院で」と、すぐに話がまとまった。
マッシモ・ボットゥーラと言えば、世界のベストレストラン50で世界一に輝いた(2016年)、イタリア・モデナの「オステリア・フランチェスカーナ」のオーナーシェフだ。
約束の時間にマドレーヌ寺院を訪れると、「ようこそ」とマッシモが陽気な笑顔で迎えてくれた。路上生活者に食事を提供する、と聞いて筆者がイメージしたのは、公園などで行われる炊き出しだが、寺院の横の入り口から「レフェットリオ」に足を踏み入れると、それとは全く違った風景が広がっていた。
室内は、温かなオレンジ色の間接照明で彩られ、レンガ造りの天井には雲をかたどった装飾が吊り下げられている。きちんとセッティングされたテーブルの上には、スタイリッシュなLEDランプ。驚く筆者にマッシモは「ここでやることは、オステリア・フランチェスカーナでやることと何も変わらない。クオリティに妥協はしない。シェフというのは、料理を通して、愛を広める活動家だと思っているからね」と語った。
レストランは毎日オープンし、昼間は一般客向けの有料レストラン、そして夜は路上生活者を対象にした無料レストランとなる。月に数回、世界中から、マッシモの友人の著名なシェフがやって来ては、この無料レストランで料理を作る。
「世界一になった後に何をするかは、とても大切なこと。有名になったことで得た信用と、賛同してくれる友人シェフたちのネットワークを使って、『料理は愛だ』ということを世界に伝えたい」