経済・社会

2024.03.03 13:30

純粋経験、ストリートメディカル、政策VC……8つのキーワードから読み解く次の時代

地域から「国ごと変える」「政策のVC」の可能性─ 伊藤和真


2023年9月、「Policy Fund」という名の新しい寄付基金が誕生した。立ち上げたのはGovTechスタートアップのPoliPoli。そこには「政策のベンチャーキャピタル(VC)」とのコピーがつけられた。聞き慣れないこの言葉が意味するところは、何か。

Policy Fundでは、VCがスタートアップに投資するように、政策提言をするNPO、研究者らに寄付金を提供する。そこで期待するリターンは、資金の出し手への「経済的リターン」ではなく、政策を介した「社会的リターン」だ。

コンセプトの中核には「資本主義の本質の非営利、政治への導入」がある。PoliPoli社長・伊藤和真はその背景をこう語る。

「Policy Fundは、寄付金にレバレッジをかける、社会課題の新しい解決策です。例えば、1億円の基金から1000万円ずつ10件の寄付で、社会課題解決の先行事例をつくっていきます。その内、1つから、10億円の国家予算を計上される政策が生まれれば『10倍の社会的リターン』。そこから、より大きなインパクトを生む政策へと反映されれば 『10倍以上の社会的リターン』になるという発想です」(伊藤)

コンセプトの源流は、海外の巨大財団にある。グローバルヘルスや気候変動といった世界規模の社会課題の解決を加速するために、予算や政府に反映する政策化で、元の寄付金にレバレッジをかけるのが、海外財団の常套手段だ。

なぜこうした政策のVCが、日本に必要であると伊藤は考えたのか。背景には、少子高齢化、経済成長の鈍化、人口減少など「社会課題の多様化・複雑化」がある。リソースに限界のある政治・行政のみで、これまでのように、解決を担うのは難しい。さらに、新たな解決アイデアへ迅速に予算をつけて、素早い実証実験をするのに、説明責任を伴う公的予算は不向きだ。

そうした現状の打開を目指すPolicy Fundでは、民間のビジネスリーダーと設立した寄付基金を財源化。この民間予算で、NPOなどに小さく、素早く、社会課題解決の実証実験を行ってもらう。そうした民間から生まれた成功事例を、新しい課題解決策として、政府・自治体に提案。政策へと反映させる。こうした政策の官民共創で、社会課題解決を加速させる戦略だ。

政策のVCは、政策化を実現するまでのあらゆる支援を行う。提供するのは、実証実験の場所(自治体)、実証実験の資金(民間リーダーの基金)、政策化のノウハウ(政策立案・政策提言の伴走)等、政策化に必須となるリソースだ。

課題意識を同じくする地方自治体からはすぐさま反応があった。Policy Fund構想発表の2カ月後、23年11月には群馬県との提携を発表。全国初の連携自治体として、「群馬県官民共創ポリシープロジェクト」を開始した。

このプロジェクトでは、Policy FundからNPO等が群馬県内で行う実証事業に寄付。代わりに、群馬県は実証実験のためのフィールドを提供する。成果が出れば、次年度以降に群馬県の取り組みとして本格的に事業化させることもある。群馬県にとってみれば、公的な予算を使わずに、社会課題解決の実証実験ができるというメリットがある。

生まれた事業は「群馬モデル」として、群馬県に限らず、全国の地方自治体、国の課題解決の源泉となる可能性を秘めている。山本一太群馬県知事は政策のVCへの期待を次のように語る。

「群馬県は、群馬モデルの創出が大きなスローガンです。知事としての野望は、とにかく群馬県で世界最先端というような地方自治のモデルを発案、実践、発信すること。地方から中央を変えていきたい」

また「NPOの聖地といえば、群馬」となり、課題解決の先進モデルをつくりたい非営利団体が、全国から群馬に集うことへも、期待を膨らませる。

地方自治体にとって、こうした連携は、「ワイズスペンディング(賢い支出)」にもつながると考えられる。効果的・効率的な予算活用の起点になるという。

「他の都道府県も、どこも財政は火の車です。やはり地方自治体が存続していくためには、ワイズスペンディングがすごく大事です。最小限のインプットで最大限の成果を上げるためには、群馬県が予算を負担するよりも、まずは実証フィールドを貸すというかたちがいい。うまくいけば、地方自治体のワイズスペンディングの新しいモデルになるかもしれません」(山本)

政策のVCとして、IPO後の起業家、地方自治体、独立系広告代理店らとの連携で、すでに4つの寄付基金を立ち上げている。寄付の希望者の問い合わせも多く、財団、資産管理会社、証券会社などから、寄付先のメニューにPolicy Fundを用意したいという相談もあるという。24年末には数億円、5年後には数十億円から100億円規模の基金を目指す。

基金による寄付は「VCからの資金調達」、実証実験は「アジャイル開発」、素早い検証と政策化は「リーンスタートアップ」──政策のVCを起点に、まるでスタートアップのように、政策化のプロセスを小さく、早く、進めていく未来を描く。


伊藤和真◎PoliPoli代表取締役CEO 。1998年生まれ。慶應義塾大学卒。大学進学後、俳句SNSアプリ「俳句てふてふ」を開発し、毎日新聞社に事業売却。2018年PoliPoliを創業。政策共創プラットフォーム「PoliPoli」「PoliPoli Gov」を開発・運営。

(文=フォーブスジャパン編集部)
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イラストレーション=ローリエ・ローリット

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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