テクノロジー

2022.03.13 19:00

「新聞」はもともとデジタルだった?

XiXinXing / Shutterstock.com

昨日、地下鉄に乗っていたら驚くべき「事件」にあった。車内はあまり混んではおらず、ほぼ全員がスマホをのぞき込んでいる。すると少し離れた座席で異変が! 急にガサガサという音がして、誰かが大きな紙らしきものを広げ始めたのだ。どう見ても迷惑、一体何を始めようとしているのか? と思ってじっと見ると、それは新聞を広げてウクライナのニュースを読もうとしている人だった。なぜかそれは、見たこともない奇異な風景に思えた。

新聞というメディアの苦境


新聞社に長年勤め、退職後も毎日配達されてくる新聞(ここでは紙に印刷されたものを指す)を読んでいるのに、車内で普通に読む人が異様に見えるなんて、何かがおかしい。しかしよく考えてみると、最近は車内で新聞はおろか本を読んでいる人にもお目にかかったことがない。新聞や雑誌や本はほとんど電子化されスマホに移り、外で買おうと思っても駅に売店もないという状況だ。

ちょっと油断をしているうちに、新聞を読むという習慣や風景は一気に世の中から消えしまった事実に、いまさらながら気づいた自分に、逆に驚いてしまった。最近の大学生はダイヤル式の電話機を使えないらしいが、これからの世代の子どもたちは、「新聞を読む」というという言葉が「テープを巻き戻す」とか「レコードに針を落とす」というぐらい意味不明な表現になっていくのだろう。

日本新聞協会が取りまとめている全国の新聞の総発行部数は2021年で3303万部。終戦直後は1500万部程度だったが、徐々に増えて1997年には5377万部に達し、それから年平均で100万部程度ずつ減り続け、ここ5年ほどは毎年200万部減と激しい状況だ。このカーブを単純に伸ばしていくと、15年ほどで0に! まさに絶滅危惧種状態なのだ。

最近、選択定年(早期退職)で辞めた記者が、「創業以来最大の赤字:朝日新聞社で今、何が起きているのか」と古巣の内情を書いたネット記事が出て、業界関係者がざわついた。

かつて800万部を誇示していた部数が500万部を割り込み、5000億円近かった売上が2938億円と2000億円も減って、さらに前年比600億円減で458億8700万円もの赤字となり、社長が交代して、社員の給与や経費等がカットされ、人員削減が始まったとされる。

将来を心配する声はかなり前からあったものの、社会の情報インフラとして電気や水道のように不可欠扱いされ再販制や軽減税率で守られ、当初は定期的に値上げすることで持ち直し、美術展や大きなイベントで読者を勧誘したり、字を大きくしたりインクが指に付かないように改良するなど、小さな手直しでお茶を濁してきた。

テレビが普及するとライバル登場! と構えたが、結局はテレビ局を傘下に系列化して乗り切り、インターネットが出てきた頃は、どうせこんなものはパソコンオタクの遊びだと相手にもしなかった。

ところがネットは予想を超えてスマホとともに広がり、ニュースばかりか本や雑誌、テレビや映画まで見られるようになり、人々は新聞を止めて購読料はスマホ代に充てるようになった。そして新聞社の収入の3割を占める広告もどんどんネット広告に移ってしまい、ついに今年は、ネットがラジオ、雑誌、新聞、テレビの4大マスメディアを足した広告収入総額を上回るという状況になった。
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文=服部 桂

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