北米

2024.05.05 09:00

警察向けボディカメラで圧倒的シェア、米アクソンの独禁法訴訟の行方

木村拓哉

Photo by Rolf Vennenbernd/picture alliance via Getty Images

今から約10年前の2014年8月、ミズーリ州ファーガソンで丸腰だった18歳の黒人男性、マイケル・ブラウンが警察に射殺され、全米を揺るがした。地元警察はボディカメラを装着していなかったが、当時はそれが一般的だった。この事件を契機に、警察の行動の透明性を高めるためにボディカメラの装着を求める声が高まり、現在では8州で義務付けられている。

ボディカメラメーカー、Axon(アクソン)は、警察に説明責任を求める動きを追い風に業績を伸ばし、全米最大手まで上り詰めた。しかし、メリーランド州ボルチモアとメイン州オーガスタ、ニュージャージー州ハウエルの3都市は、アクソンが優越的な地位を乱用して法外な料金を請求したとして、同社を独占禁止法違反で訴えている。

ニュージャージー州の連邦裁判所に提出された訴訟によると、アリゾナ州に本拠を置くアクソンは、Taser International(テーザー・インターナショナル)という社名だった時代に主要な競争相手だったVieVu(ヴィーブ)を買収し、ニューヨーク市やオークランド市、マイアミ・デイド郡、フェニックス市を顧客として獲得したという。その後社名をアクソンに変えた同社は、他の選択肢がほとんどなくなった顧客に対して積極的に値上げを行った。その結果、製品価格は1年で50%、2022年までに3倍近くまで跳ね上がり、ボディカメラ1台当たりの価格は490ドルに達した。

資産運用会社ウィリアム・ブレアのアナリスト、ジョナサン・ホーによると、アクソンの北米市場におけるシェアは60〜70%まで拡大したという。同社の時価総額は、2018年の初めには14億ドル(約2208億円)だったが、現在は220億ドル(約3兆4000億円)を超える。

原告の弁護士を務めるウィリアム・ライスは、彼のクライアントがボディカメラに過大な金額を支払った上、競合製品がほとんどない中、製品の品質が劣化していると主張していると語った。現在、ライスが担当しているのは3都市だが、今回の集団訴訟によって、アクソンの製品を購入した他の全ての自治体が加わる可能性がある。

「私のクライアントは、過剰に請求されたことで、他の重要な製品を購入できなくなっている」と彼は話す。

こうした訴えに対し、アクソンの広報担当のパム・ピーターソンは、「この訴訟の大部分は、証明されておらず、棄却されるべき申し立てに基づいている。我々は、大企業をはじめ、安価なカメラ技術を提供する数多くの中小企業とも競合している。当社は、いくつかの公開入札で、激しい競争を勝ち抜いて勝利を収めてきた」と述べている。アクソンは、今後数週間以内に棄却の申し立てを行う予定だ。

警察向けで圧倒的シェア

パナソニックやモトローラなどもボディカメラを製造しているが、市場シェアはアクソンの足元にも及ばない。投資銀行ニーダム・アンド・カンパニーのアナリスト、ジョシュ・ライリーは、4月10日付けの投資家向けメモの中で、全米の警察官約72万人のうち、70%がボディカメラを装着しており、そのうち半数がアクソン製だと推計している。
次ページ > アクソンが莫大な経済的ダメージを受ける可能性

編集=上田裕資

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事