食&酒

2024.05.06 15:00

商売を空から見届ける人

Forbes JAPAN編集部

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」では、今夜も新しい料理が生まれ、あの人の物語が紡がれる……。連載第45回。


僕がパーソナリティを務めるラジオ番組『FUTURESCAPE』(FMヨコハマ)では時々、企業とコラボして商品開発も行っている。そのひとつが、味覚糖の「横濱アイスクリンキャンディ」だ。

まず、リスナーと一緒に「横浜の人々に愛されるキャンディをつくる」という企画が番組内で立ち上がった。横浜で連想する味を募ったところ、出てきたアイデアが「あいすくりん」。明治2年、横浜馬車道通りで氷と塩を使用した日本で最初のアイスクリーム「あいすくりん」が誕生したという。この懐かしい味をキャンディにするのはどうかという話になった。

開発にあたっては、番組の生放送中に街頭サンプリングも実施。述べ1000人以上の声を集めて参考にした。個包装のパッケージは、横浜ベイブリッジや帆船日本丸、横浜市開港記念会館など、リスナーから募集した横浜の名所写真をイラストとして採用。こうして2015年1月、FMヨコハマ30周年記念公式キャンディとして神奈川県で限定発売され、4月からは全国でも販売された(現在は販売終了)。

僕は、ラジオは種火をつくるのに最高のメディアだと思っている。ちょっとやそっとの風では消えない。かといってキャンプファイヤーみたいな大きな炎にはならない。リスナーはその種火を大事に受け取り、新しい場所で新しい人に渡す。だからずっと消えずに受け継がれていくのだ。

「横濱アイスクリンキャンディ」の場合も、発売を告げた放送初日に、スーパーの棚から姿を消した。おかげで全国展開につながった。「テレビの前の皆さん、ラジオの前のあなた」という言葉があるけれど、ラジオの種火はまさに一人ひとりが番組から渡されるバトンだと思う。

社長の最大の仕事とは?

このラジオより以前、2011年に僕が山形県の東北芸術工科大学で教員をしていたときのことだ。いまでこそ学生が地域や企業と連携して社会課題を解決する「社会実装教育」が盛んだが、当時は稀だった。すでに味覚糖のアドバイザーを務めていた僕は、社長の山田泰正さんに「企画構想学科という企画を立てる学科をつくったのですが、何かご一緒しませんか?」と声をかけた。すると二つ返事でOKしてくださったのである。

学生が企画し、実際に販売された商品は「特恋ミルク8.2」。もとの商品「特濃ミルク8.2」の「濃」は「濃い」とも読む。そこで「恋」と変換してネーミングした。個包装には学生の考えた「恋愛は舐めるな」「このアメが溶けるまでは一緒にいて」など33種類のメッセージをつけた。これが大当たりとなり、10年以上経ったいまもバレンタイン前後に販売されている。山田社長の英断が、学生に勇気を与え、かつロングセラー商品を生んだのだ。
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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