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2014.11.25

「ヘッジファンドの帝王」の復活劇




“世界最高のトレーダー”として、ウォール街に名を刻んだマイケル・スタインハルト。50代で第一線を退いたが、約10年間の沈黙を破り、ファンド運用会社の幹部として「復活」。トレーダー時代とは異なる戦術で、さらなる富を築いている。

 いまや「世界の金融の帝国」といわれるウォール街だが、30年ほど前までは、単なる「紳士の投資クラブ」にすぎなかった。その中心にいたのが、伝説のトレーダーと呼ばれたマイケル・スタインハルトだ。
彼の創設したファンドは1967年から95年の間に年間平均24.5%のリターンを投資家にもたらした。自身の報酬約20%を差し引いても、だ。つまり、67年にスタインハルトのファンドに1 万ドルを投資していれば、ファンドを閉鎖した95年には480万ドルになっていたことになる。ちなみに、S&Pのインデックスファンドだったら19万ドルにしかならなかった。93年の時点でのスタインハルトの純資産は3億ドルを上回ったとされる。
トレーディングは、タイミングがすべてだ。そのタイミングを誤ったため、スタインハルトは損失を出すことになった。そして、54歳で引退を決意した。 その頃、彼が牽引したヘッジファンド業界は史上最強の“ 金を生み出す装置”となっていた。そこにとどまっていれば、総資産200億ドルのジョージ・ソロスや総資産94億ドルのスティーブ・コーエンと並ぶ世界の大富豪の一人になっていたに違いない。
「金持ちをさらに富ませるより、人生にはもっと崇高なことがあると思うようになった。金持ちを儲けさせることは罪とは思わないが、そのまま天国へ行けるような行為とも言えない」
そう当時の心境を語る彼の口調はとても紳士的で、巷にいる“ 優しいおじいさん”にしか見えない。全盛期には短気で「絶叫型の熱弁」で知られていた人物とは、とても思えなかった。だがいま、彼の心のなかには「過去のルールに従ってプレイする気はない」という力強い信念があるに違いない。
彼はトレーダー時代とは異なるやり方で、新たな富を築こうとしている。
(中略)
もちろん、スタインハルトにはある思惑がある。ETFは一般的に、通常の投資信託(ミューチュアル・ファンド)に比べ手数料が安く、税制面でも優遇されている。さらに、透明性の面でも“ 完璧”といえる。投資信託の多くが四半期ごとに運用実績を発表するのが標準なのに対して、ETFなら自分のファンドの保有残高を毎日チェックできる。手数料の安さ・税金の安さ・透明性の高さと、3拍子揃っていることから、長期的にはミューチュアル・ファンド全体の資産約12 兆ドルはETFに奪われることになるだろう、というのが彼の考えだ。
ウィズダムツリーの現在の資産運用残高は350億ドルで、ETFの市場規模(1兆7,000億ドル)に占める割合は2.1%にすぎない。だが、1%にも満たなかった10 年よりは確実に増えており、資産運用会社大手ブラックロックやステート・ストリートの2社を合わせた61.9%のシェアに少しずつ食い込んでいる。同社はたとえ1ポイントでも2ポイントでも市場平均を上回るリターンを得られるように、アカデミックな投資理論を駆使してETFを設定する。
スタインハルトのS&Pを上回るパフォーマンスにははるかに及ばないが、これなら一部の金持ちだけでなくどんな人にも手が届く。ウィズダムツリーは唯一のETF専門の上場運用会社でもある。同社の株価は13年の年初来、171.9%も上昇した。
これらのパフォーマンスを見ると、確かにジョノ・スタインバーグはここ1 年で最高のファンド・マネジャーといえるかもしれない。少なくともスタインハルトは大金を手にすることができた。彼は伝説のファンド・マネジャーと呼ばれた過去と同じやり方で、富を手にしたわけではない。図らずも彼は、異なるふたつの“ 革命的な” 投資トレンドの先頭に立つことになりそうなのだ。
(以下略、)

マイケル・ノア

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