アルフレッド ダンヒルCEO ファブリッツィオ・カルディナリ「日本マーケットを制する者は、世界を制す!」[CEO'S VOICE ]

「アルフレッド ダンヒル」最高経営責任者、ファブリッツィオ・カルディナリ氏。「ディーゼル」「ドルチェ&ガッバーナ」「ランセル」を経て2013年、現職に就任。大胆かつ、緻密なブランディングは、「アルフレッド ダンヒル」をラグジュアリーメンズマーケットにおけるトップブランドへと導いた。



英国の魂「アルフレッド ダンヒル」のイメージを一新させたイタリア人最高経営責任者。
その見事なブランディングは、周到なマーケティングと原点回帰によるものだった。


先の一手
日本市場における戦略と戦術


2013年CEOに就任し、その経験とイタリア人らしいユーモアとセンスによって、「アルフレッド ダンヒル」(以下ダンヒル)を紳士服マーケットに欠かせない存在にまで押し上げたファブリッツィオ・カルディナリ。その戦略と胸の内を聞いた。

「日本は、世界でもっとも洗練されたマーケットのひとつです。消費者は商品のよさを理解し、その魅力を敏感に感じとります。この10年でラグジュアリーブランドの消費が飛躍的に伸びている中国の人々が、東京や大阪のショップに殺到していますよね。彼らがわざわざそこに足を運ぶのは、商品を買うためだけではなく、日本の洗練された“スタイル”を学ぶためでもあると思います。これは他のアジア諸国にも同様にいえることではないでしょうか」

日本においては、すべてにおいて最高のものが求められる。

「クオリティ、クオリティ、クオリティですよ! 日本ではデザインはもちろん、品質を上げることが売り上げ増に直結します。高い技術力と素晴らしいサービスが求められており、それが実現できないなら日本に進出するべきではない。」

「そこでエッジーでもコンテンポラリーでもないものが、他国で通用するはずがありません! クリエイティブ・ディレクターのジョン・レイをはじめ、今のチームはとてもよくやってくれているし、お客様からも大変好評をいただいています。しかしながら、私の目標はもっと高いところにあります」

彼は、ダンヒルの顧客を3つのグループに分けて考えているという。

「第1のグループはライジングスターズ。25歳から35歳前後で大学を卒業し、これからビジネスの世界に入っていく人たち。2つ目はファイナンシャルフライヤーズ。35~45歳のグループで、すでにビジネスの経験を積み、ある程度のポジションに達し家族もいる。そして第3はロイヤルズ。昔からの顧客で、今も胸を張ってダンヒルを買ってくださる人々。」

「日本でのバランスは、市場の景気回復に伴い適正になってきていると感じています。具体的な数字を明かすのは避けさせていただきますが、20代のお客様が30パーセントも増えています! 若い人たちが増えているのは、日本サッカー協会とのパートナーシップ(※注)も関連しているのだろうと思います」

日本ではとにかくテーラリングが人気だという。
「ダンヒルは現在では、マスターテーラリング企業として認知されはじめています。既製品のスーツからセミオーダー、ビスポークまで、テーラリングの全分野が2桁の成長を記録しています。これは商品構成のバランスがよくなっていることで、お客様が増えていることが要因です。そしてもうひとつは、人気商品であるレザーグッズの充実。」

「革製品はイタリアの高級タンナーとパートナーシップを組み、新たな展開をはじめました。英国内では、ロンドン北部のウォルサムストウにレザーのビスポーク工房を持っていますが、こちらも大規模な改装を行っています。スーツでもレザーグッズでも、ビスポークでは“ダンヒルならではのもの”を提供できる絶対の自信があります。最も大きいマーケットはアメリカ、次いで日本です。その意味でも、日本は我々にとって、大変重要なマーケットなのです」

日本でビジネスを行うインポートブランド各社は、2013年時点で、リーマンショック前の規模まで完 全回復した。さらにアジア人観光客の需要により、14年度は前年比約8.4%増の1兆2,659億円が予測された。
日本でビジネスを行うインポートブランド各社は、2013年時点で、リーマンショック前の規模まで完
全回復した。さらにアジア人観光客の需要により、14年度は前年比約8.4%増の1兆2,659億円が予測された。

ダンヒルは現在、ロンドンコレクションズ:メンズでファッションショーを行っている。しかし、それはブランドのファッション化を意味するものではない、と強調する。

「ダンヒルはスーパーファッショナブルなブランドではありません。成り立ちや歴史を踏まえた特徴からすると、大切なのはブリティッシュネスとイノベーションで、ショーで披露するコレクションもそのふたつがベースになります。」

「ジョン・レイは素晴らしいコレクションを作っていますが、ショーに出た商品が全体の売り上げに占める割合は非常に小さいものです。これはメンズウェア限定の話で、ウィメンズではまた事情が違いますが。どんなにファッショナブルなメゾンでも、ショーに出た商品が売り上げに占める割合は6~8パーセントがいいところです。ダンヒルのようなブランドでは、この割合はさらに低くなります。私たちに必要なのは、そのスピリットを保ちつつ、広く受け入れられる商品を提供することなのです」

ファブリッツィオ自身も、英国スタイルの愛好者だ。
「私はブリティッシュスタイルが好きですし、ダンヒルのCEOとして、このスタイルで全世界を満足させなければなりません。着るものは毎日自分で選んでいます。イタリア人ですからね(笑)。イタリア人に生まれるということは、自分のスタイルを自分で決められるということです。子供のころからそうしてきました。日本人もそうでしょう? イタリア人と日本人は、スタイルに対するセンスを持っているのです」

インタビューの中盤突如、これだけは言わせてほしい! と語り出した。
「私は“会社は人である”と言いたい。一人ひとりが仕事を愛していれば、グレートチームができる。もし、その仕事を愛せないのなら会社を辞めるべきです。ダンヒルの進化も、私ひとりの力ではなく、チームの力によってなされたものです」。

インタビューが行われたのは、ロンドン本店「ボードンハウス」のテーラリングルーム。メンズファッションウイーク期間中とあって、同部屋はプレス、バイヤー関係者などで、賑わいを見せていた。
インタビューが行われたのは、ロンドン本店「ボードンハウス」のテーラリングルーム。メンズファッションウイーク期間中とあって、同部屋はプレス、バイヤー関係者などで、賑わいを見せていた。

次の一手
未来へのブランディング


ファブリッツィオ就任直後のダンヒルは、長い歴史を持つブランドゆえの悩みを抱えていた。

「私がきたばかりのころ、ダンヒルは誰もが知っていて尊敬を受けるブランドでありつつも、商品とマーケティングは不十分な状態にありました。具体的な名前は挙げませんが、他のメジャーブランドとの比較でも、過去10年の間、ダンヒルの商品は時代に合った進化をしてこなかったと思います。マーケティングでもそうです。数年前までの広告は、しかめっ面の老人のモノクロ写真でした。誰もが願うことは、若々しく幸せでカラフルでありたいということなのに……。」

「そこでまず取り組んだのが、製品を第一に考えつつ、時代に沿った広告戦略を打ち出すことでした。そして、メンズウェアとレザーグッズを主力とし、コミュニケーションやPRの面では、スタッフ全員がブランドを理解することから始めました。歴史や時代背景も含むバイブルを作成し、共有しました。いい商品とそれに見合うマーケティングこそが、我々の成長のカギとなるものです」

ダンヒルらしさ、そしてブランドとしての価値はどんなものなのか。

「ダンヒルの核となるものは、第1がブリティッシュネス、第2が男らしさです。これらのいいところはタイムレスであることだと思っています。私が今着ているこのジャケットは、もちろんうちの製品ですが、とてもスタイリッシュでしょう? そして数年後にもそうあり続けるに違いありません。妥協しないこともまた大切です。ブランドは常に進化し、革新していかなければなりません。」

「過去、ダンヒルはモータースポーツとともにあり、それまで存在しなかった商品を数多く作り出しました。そんなブランドが何年も革新的な商品を出してこなかったのは、ブランドへの裏切りであり、歴史や価値への敬意の欠如です。革新はコレクションラインを中心に行い、顧客に寄り添いながらそのスピリットを生かすことで、顧客の望む商品を作り出していきます」

世界感を表現する路面店がもっと必要だと言う。

「たとえば日本では、銀座にしか路面店がありません。百貨店とは長年いい関係を築いてきていますし、新しい地域への進出には、有効だと考えています。しかし、ブランドの成長のためには、その世界観を体現する路面店が必要なのです。来年早々、大阪にオープンしますが」

日本では、ぜひニセコに行ってみたいと言う。それはスキーのため? それともスパを作るため?
「スパ、いいですねえ(笑)。可能性はあります。私はビジネスマンですから、脳はいつでもオンになっていますよ。寝ている間にアイデアを得ることもあるので、ベッド脇に常にメモ帳を置いているんですよ」


富岡秀次 = 写真 正岡雅子 = インタビュー・文

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