ビジネス

2014.11.12

ワッツアップ「2兆円買収劇」の一部始終




今年2月、フェイスブックがチャットアプリ「ワッツアップ」を190億ドル(約2兆円)で買収するというニュースが世界を駆け巡った。ウクライナ出身のジャン・コウムがワッツアップを設立してわずか5年。舞台裏では、何が起こっていたのか。

(中略)
「皆さんに知らせたいことがある。我々はフェイスブックと合併する」

 ひたすら動揺する従業員に、コウムとアクトンは「これまで通りの業務を続けられるから、心配はない」と告げた。14時半。突然、会議室のドアが開き、ザッカーバーグが従業員たち前に姿を現した。彼は、しばしスタッフたちと話をし、握手を交わした。
設立からわずか5年。ワッツアップがこんなにも大きく成長できた理由はなんなのか。
マウンテン・ビューにある本社から線路を渡り、いまは使われなくなった元ノース・カウンティ社会福祉事務所の建物まで歩くと、その答えはなんとなくわかった気がする。この建物こそが、フェイスブックとの契約にコウムがサインした場所。彼がかつて食料配給券をもらおうと、列に並んでいた場所なのだ。

(中略)
コウムは、ヤフー時代の40万ドルの貯金を切り崩しながら、無気力な日々を過ごしていた。09年になると、彼はiPhoneを買い、アップルストアを使い始めた。

ここに、新規産業の芽があった。

彼はある日、ロシア人の友人アレックス・フィッシマンの自宅を訪ねた。フィッシマンはウエスト・サンノゼの自宅にロシア人仲間を呼び、ピザを食べながら映画を見るようなパーティーを毎週開いていた。ふたりはフィッシマンの台所のカウンターで紅茶を飲みながら、アプリに関するアイデアを何時間にもわたり話し合った。コウムのアイデアは、「人名の隣にその時々のステータスを示せれば、本当に便利だろう」というものだった。ステータスとは、たとえば「いま、ジムにいる」「もうすぐバッテリーがなくなりそう」というものだ。
彼はフィッシマンに紹介されたエンジニアに開発を依頼し、「What’s up?(どうだい?)」のように聞こえるとの理由で、「ワッツアップ」を社名にすることに決めた。09年2月24日、自分の誕生日に会社を設立した。アプリはまだ出来上がっていなかったにも関わらず。さて、いよいよザッカーバーグとコウムがワッツアップにどうやって企業価値をつけるのかを考える番となる。コウムは17年以降、本当の収益が上がるようになると考えている。その時点で10億人のユーザー獲得を目指す。

 コウムはいまのところ、ワッツアップを継続させること、そしてユーザーを流出させないことをふたつの優先課題としているという。

それに対しては、こんな指摘もある。元ブラックベリーのエンジニア、テッド・リビングストンは言う。
「過去5年間、ワッツアップは“SNSを無料で”提供することだけに専念してきて、その点では非常に良い業績をのこしてきた。だが、ある時点でユーザーは他に乗り換えていく。私には、ワッツアップがブラックベリーのように感じられる理由はこれなのだ」
長年にわたり、ブラックベリーは電子メールのみに専念してきた。しかし、一度消費者がこれを認識すると「次は何が来るのか?」と問いかけるようになった。iPhoneが消費者のそんな欲求に応え、ブラックベリーは突然置き去りにされたのだ。
確かに、ワッツアップは出来るだけシンプルなやりかたで、ひとつの事に集中して取り組んできた感はある。こうした指摘に対して、コウムはどう応えていくのか。
コウムが常々口にしている、こんな言葉にその答えのヒントがあるかもしれない。
「私はひとつのことに専念し、それをきちんとやりたいんだ」

パーミー・オルセン

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