ビジネス

2015.09.01 08:00

憧れに発展する追体験「無編集一人称コンテンツ」

[無編集一人称コンテンツ]

代表的なのは、GoProなどスポーツカメラを装着して撮影された映像。プレイヤーが自分の体験をそのまま撮影したもので、編集がされていないため、プレイヤーと同じ意識の流れを共有できる。

GoProなどのスポーツカメラが普及して以来、一人称視点の映像に触れる機会が増えてきました。「プロのスノーボーダーってこんなふうに世界が見えているんだな~」と、プレイヤー視界をそのまま映像化して、迫力ある追体験ができてしまう、あれです。
 
GoProはファインダーや液晶がないので、撮影中は何が撮れているかの確認ができません。録画を開始したらフレーミングやアングルを気にせず、とりあえず自分の体験をまるっと録画しておくくらいの気楽さで使えます。つまり、「撮影している」っていう感覚から逃れられるのです。
 
アメリカではスポーツ中継ですら、「一人称視点コンテンツ」化が本格化しています。GoProがNHLや冬季Xゲームズの放送機材ベンダーとして、正式に提携。生放送に対応可能な無線ソリューションも開発されています。
 
こうした「一人称視点のコンテンツ」は増えています。例えば、NHKの「世界ふれあい街歩き」。見知らぬ海外の街を超ゆるい感覚で散歩してみせます。ゲームの世界でもFPS(First Person Shooter)と言われる一人称視点でのシューティングゲームがすっかり主流化しました。今後、ゲームではオキュラスなどのHMD(Head Mounted Display)の普及も間違いなく進むので、気づいたら全部一人称視点ということもありえそうです。


 
一人称視点が思いがけない「地方活性化」につながると話すのは、Bチーム代表の倉成英俊です。彼はこう言います。

「一人称視点コンテンツで思い出す事例は、Bチームのリサーチに上がってきてた“Japow”。外国人スキーヤーたちの間でJapanのPowder Snowが人気で、彼らは略してジャパウと呼んでいるそう。そのブームに火をつけたのが、無編集一人称コンテンツ。

有名スノーボーダーやスキーヤーたちが日本で実際滑りながらGoProで撮った映像をアップした。それが、北海道や白馬にいま外国人スキーヤーが殺到する発端の1つになったというのです。“Japow”を世界の憧れの的にしたのが、アメリカ人プロスノーボーダー、トラヴィス・ライスの映像です。顔まで巻き上がるパウダースノーがGoProならではの躍動感で追体験できます」
 

北海道を訪れる外国人客。長野県白馬村の外国人宿泊客は、3年で2倍以上に増えた。
(フォーブスジャパン9月号より)

では、なぜこんなに一人称視点の映像は盛り上がってきているのでしょう?
 
カメラの小型化や手ぶれ補正の進化など、技術の飛躍的な向上があります。ゲームだったら、三次元CGの世界を自由に精妙に作り込めることになったのが大きいでしょう。しかし、技術だけではブレイクには至らない。その技術が人々の何かしらの感覚をうまく捉えているから、一気に台頭するのです。それは何でしょう? 

おそらく一人称視点の映像が「体験の共有」にいちばん近い映像表現だからなんじゃないかと思います。見て聞いて体験したことを、なるべく自分が体験したのと同じ感覚で誰かに感じてもらいたい。そんな欲求に真芯でミートしているのではないでしょうか。本来、メディアとは、もとからそういう機能を持っていたはずです。一人称視点の映像はその強度が図抜けているのです。
 
普通の映画やニュース映像で観る、ちょっと距離をおいたところから撮られたアングルや、文脈を理解しやすくするためになされる編集、そういう紹介説明的な映像に人々は飽きていて、求められているのは、第三者による紹介ではなく、体験の当事者からのダイレクトな共有ということなのかもと思います。俯瞰的だったりすること自体が、ちょっと「上から目線」っぽいのです。
 
Bチームの代表・倉成曰く、「共感が得られるのは、まさに無編集一人称だから。いくらGoProなどのウェアラブルで撮っても他者の作為ではダメ。作られていない、嘘がない、かつ、見たことないじゃないと。体験した本人の感覚が、自分のSNSのタイムラインにダイレクトに共有されてくるというのは、体験のダイレクトコミュニケーションです」。
 
この先、映像体験はカメラとモニターというデバイスの存在を前提にした「撮る/観る」関係から、GoProやHMDを主役にした世界、つまりユーザーがデバイスの存在をことさら意識することなく、体験してきた側と体験したい側のそれぞれが「憑く/憑かれた」関係を楽しめるような、そんな体験価値にシフトしていきそうです。そこで成立するビジネスはもはやコンテンツと呼ぶよりも、存在の入れ替えを実現してくれるようなもの。そう、「体験代理業」と言うべきものになっているのかもしれません。
 
以下が倉成の、その可能性についての総括。

「無編集一人称の源流は、私小説でしょう。つまり、映像に限らず、文字、音声、ビジュアルなど方法は広がります。また、Japowが地方創生につながったように、中小企業、伝統工芸、高齢者など、解決策が急務なところで応用できるはずです。無編集一人称を武器にして、もっと早く安く、自分が思うように、どんどん撮ってアップする。何に火がつくかわからないけれども、ここがまた面白いところじゃないでしょうか。みんなの、誰かの、ユニークな視点が日本の可能性を広げていく。見ている方としても、何が起こるか楽しみじゃないですか」

牛久保 暖 = 文 尾黒ケンジ = イラストレーション

この記事は 「Forbes JAPAN No.14 2015年9月号(2015/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

電通Bチームの NEW CONCEPT採集

ForbesBrandVoice

人気記事