欧州

2024.06.10 11:30

戦場のチキンレース ロシア軍のBTR-82とウクライナ軍のM2が劇的な接近戦

米軍のM2ブラッドレー歩兵戦闘車。2016年9月、リトアニア・パブラデ(Karolis Kavolelis / Shutterstock.com)

ウクライナ東部で8日かその少し前、ロシア軍とウクライナ軍の装甲車両同士による生死紙一重のチキンレースが繰り広げられ、負けた側の死と破壊で終わった。

ドネツク州アウジーウカの西もしくは南西で、歩兵分隊を車上に乗せたロシア軍のBTR-82装甲兵員輸送車が両軍の陣地線の中間地帯を越え、ウクライナ側の保持する集落に突進してきた。すると、同じ道路の反対側からウクライナ軍第47独立機械化旅団のM2ブラッドレー歩兵戦闘車が現れ、敵車両に敢然と向かっていった。

ウクライナ軍のドローン(無人機)が上空から監視するなか、装軌車両のBTR-82は30mm機関砲、装輪車両のM2は25mm機関砲でそれぞれ射撃しながら互いに相手の方向に向かって走っていく。

至近距離まで近づいたところで、BTR-82が右側にそれ、衝突は回避される。2両はなお連射を続けつつ、すれ違っている。エストニアのOSINT(オープンソース・インテリジェンス)アナリスト、War Translatedは「現実の世界で目にするとは誰も想像していなかったような」交戦だったとコメントしている

勝敗は明らかだった。M2は大きな損傷を免れ、定員どおりなら3人の乗員も無事だったようだ。同じく乗員3人のBTRは損傷し、煙を上げながら道路脇に停車しようとしている。途中で、死傷した歩兵が車体からばらばらとこぼれ落ちている。

第47旅団は通信アプリ「テレグラム」への投稿で状況を説明している。ロシア軍の複数個の自動車化狙撃旅団・連隊が現在、アウジーウカの西40kmほどに位置するポクロウシクに向けて前進を図っている。「ここで敵はわれわれの領土の奥深くに前進しようとしています」

「映像のAPC(装甲兵員輸送車)は、ある集落に突入してきました。ブラッドレーの乗員が即座に対応しました」

結果は予想できた。ウクライナの1000kmにおよぶ戦線で目下、最も激しい戦闘が繰り広げられている正面のひとつであるアウジーウカ西方面に、ウクライナ軍は、発射速度が高く命中精度も非常に高いブッシュマスター機関砲を備えた重量30t強のM2をはじめ、高性能で重量級の装甲車両を投入している。対するロシア軍は重量15tほどのBTRや同12tほどのMT-LB装甲牽引車など、古く性能の低い車両を使わざるを得なくなっている。

同じくらいの数の装甲車両を配備された両軍の部隊が激突した場合、ロシア軍のほうが大きな損害を被るのが普通だ。5月にはOSINTアナリストのアンドルー・パーペチュアが確認しただけで、ロシア軍は歩兵戦闘車と装甲兵員輸送車を計300両近く撃破されている。オランダのOSINT分析サイト「オリックス(Oryx)」によれば、ウクライナ軍が失ったのは40両ほどにとどまる。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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